進化を続ける浅草・蔵前 変わりゆく街に根付くクラフトマンシップ

変わりゆく浅草・蔵前の街へ出かけよう

もともとは職人の街だった浅草・蔵前も、時代の移ろいとともに変化を遂げ、オーダーメイド文房具店「カキモリ」(2010年オープン)や「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(2012年オープン)といった新しいコンセプトを持ったお店が次々に誕生し、「おしゃれな街」としての表情も見せている。

古き良き伝統と新しい息吹が融合して日々進化を続け、街としてのアップデートを繰り返している浅草・蔵前だが、もの作りの精神はいたるところで見て取れる。街に根付いた歴史あるお店や工房、職人さんは健在で、そこにあるクラフトマンシップが色褪せることはない。

今回は「変化」と「不変」が交差する街、浅草・蔵前に確かに漂う、クラフトマンシップを感じる1日旅へと出かけてみよう。

北欧のクラフトマンシップを浅草で感じる。現地で買い付けた生地や雑貨を扱うヴィンテージ雑貨店「緑園」

浅草駅から歩いて約15分。初めに訪れたのは、住宅や職人さんの工房などが立ち並ぶ観音裏エリアにある、北欧・東欧のヴィンテージアイテムを扱う雑貨店「緑園」だ。

「緑園」外観

さっそく、味わいのある白い木製の扉をそっと引いてみると、明るくカラフルな店内には、クロス、カトラリー、手芸用品、ぬいぐるみ、食器、紙など多種多様なヴィンテージアイテムが所狭しと並ぶ。そこには、まるで宝箱を開けたかのような親密かつ刺激的な光景が広がっていた。

黄色を基調とした明るい店内には、さまざまな雑貨が並んでいる

経営するのは大澤さんご夫妻で、年に1、2回欧州に渡り、直接買い付けたアイテムを中心にラインナップしている。大澤さんが「特に力を入れています」と語るのが、棚に並べられた膨大な数の生地。

大澤:店頭に並ぶものだけでも200種類はあると思います。カーテンも150種類くらいあって、おそらく、欧州のヴィンテージ生地を扱うお店でここまでの数と、種類を取り揃えているのはうちくらいではないでしょうか。

生地の絵柄はどれもカラフルでかわいらしく、よく見ると、手刺繍の生地は花柄が多いことがわかる。手刺繍の生地は、当時の女性たちが自宅でテーブルクロスやカーテンとして使うために刺繍したもので、ファッションのトレンドに合わせて花柄が多く使われたのだという。食卓を華やかにしよう、室内を明るく彩ろう、という当時の思いが伝わってくる。

大澤:欧州には「作れるものは自分で作る」という文化が根付いています。布に手刺繍したり、壁にペイントを施したり、木箱に絵を描いたり。地域で代々引き継がれてきた図案やデザインが生活に浸透していて、自分たちで作ったものを長く使っているんです。東欧は特に手刺繍が盛んで、嫁入り道具として、自分が仕立てた刺繍入りのシーツやリネンを持っていく。クラフトマンシップを大切にする文化はまだまだ残っていると感じますね。

華やかな生地の向こうに、北欧・東欧の温かみのある生活と、そこに息づくクラフトマンシップを垣間見た気がした。

1か月に100点以上の商品を入荷。そのほとんどが、1点ものだという

形も色も、デザインも品質も同じ商品が大量生産される時代だからこそ、ここでしか出会えない、手に入らない1点ものを扱う「緑園」に人は魅力を感じ、足を運ぶのかもしれない。浅草・蔵前にお出かけの際は、ぜひ「緑園」を訪れてみてほしい。木製の扉の先に並ぶ宝物の数々がきっと、あなたの好奇心や審美眼を満たしてくれるはずだ。

日常を忘れ、穏やかな時間を過ごす。奥浅草の住宅街にひっそりと佇む古民家カフェ「カフェつむぐり」

観音裏を散歩中に、ひと息つきたくなったら「カフェつむぐり」を訪れてみるといい。閑静な住宅街の一角にひっそりと佇む「カフェつむぐり」は、築68年の木造家屋を店主の室伏将成さんが自らリノベーションした古民家カフェ。そこには久々に帰った田舎の「おばあちゃんの家」のような、温かく、静謐な時間が流れている。

温かみのある店内1階は「おこもり感」が出ている

「つむぐり」という店名は、森や山の生態を「循環」させるうえで重要な役割を担う「どんぐり」と、「紡ぐ」という言葉を掛け合わせた造語。おいしいメニューだけでなく、自分自身と向き合う時間を楽しめる空間を提供したいという思いが詰まった店名だ。

天井が高く開放感のある店内は、表の音がほとんど聞こえない落ち着いた空間となっており、ひとりで物思いにふける時、静かに過ごしたい時にぴったり。

古民家らしい梁を残した2階は「開放感」がテーマ
お店はすべて室伏さんがDIY。安全を配慮して、入店できるのは中学生以上から

オープンにあたり、室伏さんはさまざまなお店を見て回ったそうだが、何が決め手だったのだろうか?

室伏:「こんな店にしたい」と、最も共感できたのが古民家カフェだったんです。木の匂いとか埃っぽさとか、オレンジ色の電球の明かりが落ち着くとか、日本人のアイデンティティとして懐かしさを感じる。そこが一番の決め手になりました。

「カフェつむぐり」ではコーヒーに関するイベントのほか、木のカトラリーを制作するイベント、クリエイターを招いてのイベントなど、「クラフト」に関するさまざまなイベントを開催している。

室伏:イベントを通じて、目の前にある日常の物事を多面的に捉え、自らが手にしている豊かさや楽しさ、自らが大切にすべきことなどを再認識するような、新たな「気づき」や「可能性」を提供する場になれたらと思っています。

すっきり目に抽出されたコーヒーと、お猪口に入ったミルク、お豆、ホイップ
季節によって具材が変わるフルーツサンド。甘さ控え目でおいしい

「カフェつむぐり」を訪れ、生活のなかで絡まってしまった感情の糸をほぐし、整理し、再びその糸を使って編んでいく。そうして出来上がった1枚の布は、首元で軽やかに揺れるストールにも、肌を刺す風雨から身を守る外套にもなるのではないだろうか。

元新聞記者の店主が、本当に読みたい1冊を並べる書店『Readin'Writin'』

「カフェつむぐり」を後にして、蔵前方面へ。次に訪れたのは、田原町駅から徒歩約2分、大通りから1本入った静かな路地にある新刊書店「Readin'Writin'」。材木倉庫をリノベーションしたという建物は、えんじ色の壁に大きなガラス窓を合わせたレトロモダンな外観が印象的だ。

「Readin'Writin'」外観

店主は元新聞記者の落合博さんで、主にスポーツに関する社説やコラムを執筆していたそう。選書の基準はシンプルに、落合さんが読んでみたい本。5年後、10年後でも読まれる本を選んでいるという。

落合:あまり知られていない価値のある本たちが、それらを求める誰かに出会うまで、時間や手間をかけて売っていきたいんです。もちろん、いま何が流行っているのか、何がおもしろいのかについてもアンテナは張っていますが、大手書店が平積みするような本は置きません。うちでなくても出会える本ですから。

では、売れていない本がつまらないかというと、決してそんなことはない。話題にはならないけれど、これはおもしろそう、読んでみたい、と感じた本を仕入れています。

倉庫の面影を残す格子状に組まれた壁面の木材を本棚として利用している

きれいに陳列された本もあれば、あえてランダムに積まれた本もあり、店内の随所に、本との「出会い」を演出する仕掛けが散りばめられている。ジャンル別ではなく、映画やコーヒーなど、テーマ別に書籍や雑誌が並べられているのもおもしろい。

ランダムに並べられた本

新聞記者時代は自分から人に会いに行く仕事だったが、お店を始めて2年が過ぎたいまは、常連のお客さんが会いに来てくれるようになり、クリエイターや出版関係者、作家などとの出会いもあるという。

落合:知り合った方々とのイベントにも力を入れています。最近は平均すると月10回ペース、2月は20回イベントを行いました。出版記念イベントやトークイベント、スケッチ、短歌、演劇、タロット占い、また新聞記者という経歴を生かして、ライティングのワークショップも開催しています。そこで出会ったお客様と話すのは、やっぱりおもしろいですよ。

時間をかけて売られていく本に魅せられ、人が集まり、いつのまにか生まれる交流。「Readin'Writin'」は、「本を売る」という書店の概念に収まることなく、「何かを生み出そう」という、クラフトマンシップにも通ずるマインドを持つ書店だった。

本棚に間にある栞に関する展示スペース

浅草観光で疲れたら、「FUGLEN ASAKUSA」で一休み

2018年9月にオープンした「FUGLEN ASAKUSA」は、ノルウェー・オスロに本店を構えるカフェの国内2号店だ。

「FUGLEN」自慢の浅煎りノルディックローストコーヒーのほか、オリジナルカクテル、国内外のクラフトビール、フードなど豊富なメニューを用意。ノルウェーデザインに包まれた温かみのある店内は居心地がよく、浅草・蔵前観光の羽根を休めるにはうってつけだ。「FUGLEN ASAKUSA」が提供する、洗練された空間と時間をぜひ体感してみてほしい。

取材ではアボカドのワッフルをいただいた

訪れればきっと、温かな気持ちになる。小さくて、どこか懐かしいゲストハウス「東京ひかりゲストハウス」

おもちゃ問屋が軒を連ねる蔵前は、江戸時代から続くものづくりの街。そんな蔵前の一角に、大の旅行好きという兼岩勲さん、夕美子さんご家族が営む「東京ひかりゲストハウス」はある。

海外旅行に出かけ帰国したときに、安く泊まれて宿泊者と交流できるようなゲストハウスが、日本には少なすぎると気づいたという。それなら自分たちで作ってしまおうと一念発起し、2014年に「東京ひかりゲストハウス」をオープンした。

白壁と木製の扉が印象的な「東京ひかりゲストハウス」

古い木造家屋をご夫妻が自らリノベーションした建物は、内装のあちこちに昔の面影が感じられる。たとえば、宿泊者共用のくつろぎスペースとなる1階のパブリックルーム。ここはかつて住んでいた大工の作業場だった場所で、床を張らず、土間をそのまま残している。

パブリックルームの天井の高さは4mと開放的で、庭に面した大きな窓から陽の光がたっぷりと注ぎ込む。この明るいパブリックルームでお茶を飲んだり、本を読んだり、宿泊者同士で歓談したりと、ゆったりとした時間を楽しめるのがうれしい。

「東京ひかりゲストハウス」1階のパブリックルーム

1階に1部屋、2階には3つの部屋があり、各部屋には「雲」「晴」「土」「風」といった自然にまつわる名前が付けられている。どの部屋も木のぬくもりが感じられ、自然と心がほどけた。

宿泊者同士が出会い、交流できるのはゲストハウスに宿泊する醍醐味のひとつ。「東京ひかりゲストハウス」にはどのような人が訪れ、どのような交流をしているのか。

兼岩:全体の7割くらいが海外からの旅行者です。特にアジア系の方が多いですが、時期にもよりますね。今日は13名のお客様にご宿泊いただいていますが、そのうち6名がフランス人のお客様です。みなさん自然と仲良くなって、ワイワイ楽しまれていらっしゃいますよ。

宿泊者は国内外からのリピーターも多いという

浅草寺、東京スカイツリーなどの観光スポットへのアクセスも抜群の好立地。旅行者を気さくに迎えてくれる兼岩さんご家族の温かさもまた、東京観光の「忘れられない思い出」となるに違いない。

店舗情報
緑園

住所:東京都台東区浅草6-41-9
営業時間:11:00-19:00(水曜日・木曜日定休)

カフェつむぐり

住所:東京都台東区浅草5-26-8
営業時間:金、土、日、月のみ営業(臨時休業あり)
[平日]12:00-17:00(LO16:30)、1階のみの営業
[土日]12:00-17:00(LO16:30)での営業

Readin'Writin'

住所:東京都台東区寿2-4-7
営業時間:12:00-18:00(月曜日定休)

FUGLEN ASAKUSA

住所:東京都台東区浅草2-6-15
営業時間:
[月、火、日]7:00-22:00
[水、木]7:00-1:00
[金、土]7:00-2:00

東京ひかりゲストハウス

住所:東京都台東区蔵前2-1-29
利用受付時間:8:00-12:00、16:00-23:00



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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