Jaga JazzistとAmgala Templeを繋ぐ、ノルウェー音楽の地脈

Jaga Jazzistが世界的成功を収めた背景。そこには、狭くて濃い音楽コミュニティーが

幾度も来日を果たしているJaga Jazzistは、ノルウェーはもとよりワールドワイドに活動し、大きな成功を収めたジャズバンドだ。サックス奏者のラーシュ・ホーントヴェットを中心に、数々の個性溢れるノルウェーのプレイヤーたちが流動的に関わってきた一大プロジェクトと言ってもいい。ジャズのみならず、ポストロックやエレクトロニックミュージックから民族音楽まで多様な音楽を吸収した、オープンでエクスペリメンタルな音楽性が魅力だが、それはノルウェーの横断的な音楽シーンを象徴するサウンドでもある。

Jaga Jazzist『The Stix』(2003年)を聴く(Apple Musicはこちら

「ノルウェーの人口は少なくて、お互いに知っている関係なんだ。その中でさらにジャズのコミュニティと言ったらほんとうに小さく、自然に知り合ってしまう。僕らが音楽を始めたとき、ジャズの巨匠と言われる人達は三十以上も歳の差があって、憧れの人でしかなかったけれど、いまは自分たちが成長して、同じコミュニティにいる意識だね」(『CDジャーナル』、2014年12月号のインタビューより)

ホーントヴェットは、以前インタビューでそう答えてくれたが、彼らにとっての巨匠とは、ドイツのレーベル「ECM」を通して世界に紹介されたサックス奏者のヤン・ガルバレクやギタリストのテリエ・リピダルらである。アメリカのジャズとは感触の異なるソリッドかつリリカルな演奏は、まだ設立間もなかったECMのレーベルカラーを特徴づけることにもなった。以後のECMの作品に共通する空間性を活かしたサウンドデザインは、ノルウェーや北欧ジャズのイメージとも重なっていった。

ヤン・ガルバレク『Places』(1977年)を聴く(Apple Musicはこちら

テリエ・リピダル『After the Rain』(1976年)を聴く(Apple Musicはこちら

それに続く、トランペッターのニルス・ペッター・モルヴェル(北欧ジャズを代表するトランペッター)やピアニストのブッゲ・ヴェッセルトフト(ノルウェーのジャズシーンを代表するピアニスト)は、ヒップホップやエレクトロニックミュージックをジャズにいち早く採り入れた世代だが、彼らも同時代のアメリカやイギリスのクラブジャズとはひと味違ったクールなスタイルを貫いていた。

ニルス・ペッター・モルヴェル『Khmer』(1998年)を聴く(Apple Musicはこちら

ブッゲ・ヴェッセルトフト『Moving』(2001年)を聴く(Apple Musicはこちら

ちなみに、ノルウェージャズの特徴をモルヴェル自身はこう述べている。

「テリエ・リピダルやヨン・クリステンセンのようなミュージシャンは、意識せずにストレートなジャズからスウィングを取り除いた。彼らはその可能性を示したんだと思う」(『All About Jazz』のインタビューより / 外部リンクを開く

モルヴェルは近年、Sly and Robbieやヴラディスラフ・ディレイらとNordubというプロジェクトをはじめたり、ミニマルテクノ / エレクトロニックダブの第一人者であるモーリッツ・フォン・オズワルドとのコラボレーションもおこなってきたが、自身のソロ作では、Jaga Jazzistに関連する若いプレイヤーも積極的に起用してきた。

横断的で、独自のサウンドを輩出するノルウェーの音楽文化を支える2つのレーベル

そして、Jaga Jazzistが代表する世代にとって、自分たちの音楽を表現する重要なプラットフォームとなったレーベルが「Rune Grammofon」である。ECMのサポートを得て設立されたこのレーベルは、ECMに通じる世界観を保ちつつ、よりジャンルレスにノルウェーのコンテンポラリーな音楽を紹介していった。

Rune Grammofonのレーベルプレイリストを聴く(Spotifyを開く

FoodやSupersilentのエクスペリメンタルで音響的なサウンドやAlogのエレクトロニカから、Motorpsychoのヘヴィロック、Jaga Jazzistにも関わったメンバーたちによるIn the CountryやShiningの現代ジャズまでが、このレーベルによって紹介され、シームレスに繋がっていった。だが、それは無理に繋がったものではなく、ホーントヴェットが指摘したように、小さなコミュニティーゆえに自ずと繋がっていった結果であり、その適切なアウトプットであったのだ。

In the Country『Losing Stones, Collecting Bones』(2006年)を聴く(Apple Musicはこちら

Shining『Losing Stones, Collecting Bones』(2005年)を聴く (Apple Musicはこちら

もうひとつ、重要なレーベルが「Smalltown Supersound」である。プリンス・トーマスやLindstrøm、トッド・テリエといったノルウェーのDJ / クラブミュージックのプラットフォームであり、初期のJaga Jazzistを支え、ホーントヴェットのソロもリリースしたレーベルであるが、一方でノルウェーを代表するアンビエントアーティストのBiosphereや、ネナ・チェリー(Gorillazらの作品への参加でも知られるスウェーデン出身のシンガー)のリリースも手がけている。

ラーシュ・ホーントヴェット『Pooka』(2004年)を聴く(Apple Musicはこちら

ブッゲ・ヴェッセルトフトとプリンス・トーマスの共作(2018年発表の『Bugge Wesseltoft & Prins Thomas』)も企画し、そのトーマスによるレーベル設立25周年記念のミックス『Smalltown Supersound 25: The Movement Of The Free Spirit』(2018年)もリリースした。トータル220分にも及ぶミックスには、レーベル初期にリリースしていたノイズやフリージャズから、アンビエントやドローンを経て、ハウスやディスコティックなサウンド、それにJaga Jazzistの音源も満遍なく収められていた。このミックスを聴くと、Smalltown Supersoundがいかにレンジの広い音楽性を持っているかがわかるとともに、多様性のあるノルウェーのシーンが築かれていったプロセスを知る(聴く)ことができる。

『Smalltown Supersound 25: The Movement Of The Free Spirit』を聴く(Spotifyを開く

前述のモルヴェルはホーントヴェット同様にこんな発言もしている。

「私たちはノルウェーの小さなコミュニティだ。そのなかで、伝統的な音楽のミュージシャンとクラシック音楽のミュージシャン、それにノイズのアーティストが一緒に小さなプロジェクトをやったりして発展してきた。それゆえ、アメリカ音楽で何かやるのとは違った、強固な音楽的な伝統がある」(『All About Jazz』のインタビューより / 外部リンクを開く

ホーントヴェットによる最新のプロジェクトであるAmgala Templeは、3ピースのバンドだ。Jaga Jazzistとは違い、彼はサックスを一切吹かず、ベースとキーボードを弾く。Acoustic Unityというフリージャズのトリオをやっているドラマーのゴード・ニルセンは時にアフロビートを叩く。アムンド・マールドはブルースギタリストだ。

Amgala Templeは、プログレッシブバンド・Soft Machineの精神を受け継ぐべく立ち上がったという。ノルウェーでのレーベル「Pekula」のプレスリリースではその音楽性を位置づけるにあたり、King Crimson、マイルス・デイヴィス、Black Sabbathが引き合いに出されている

ホーントヴェットは筆者が話を訊いたときにはロサンゼルスに住んで、Flying LotusやThundercatと交流を持ち、そこでの生活と音作りを楽しんでいるようだった。あれからAmgala Templeへと至った経緯はわからない。だが、彼とJaga Jazzistがやってきたことと、ノルウェーの音楽コミュニティーの在り方を知れば、このバンドの登場も何ら唐突なことには思えないのだ。

Amgala Temple『Invisible Airships』(2018年)を聴く(Apple Musicはこちら

イベント情報
『CROSSING CARNIVAL'19』

2019年5月18日(土)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST、duo MUSIC EXCHANGE、clubasia、WOMB LIVE、TSUTAYA O-nest

出演:
Analogfish
Amgala Temple(with member of Jaga Jazzist)
eill
Emerald(フィッシュマンズ・トリビュートセット with 木暮晋也、HAKASE-SUN)[ゲスト:曽我部恵一、崎山蒼志]
Enjoy Music Club(ゲスト:Homecomings)
OGRE YOU ASSHOLE
GEZAN
C.O.S.A.
Serph(ゲスト:amiinA)
崎山蒼志 feat.君島大空
SIRUP
Spangle call Lilli line feat.ナカコー
田我流
TENDRE feat.SIRUP
TENDOUJI
東郷清丸
Dos Monos
ニトロデイ feat.uri gagarn 威文橋
Nyantora
nhhmbase
蓮沼執太フィル(ゲスト:高野寛)
パソコン音楽クラブ feat.長谷川白紙
VaVa
BIM
fhána
betcover!!
Homecomings
bonobos
Polaris
ミツメ
MONO NO AWARE
ものんくる
uri gagarn
Yogee New Waves
料金:4,800円(ドリンク別)

リリース情報
Amgala Temple
『Invisible Airships』(CD)

2019年3月6日(水)発売
価格:2,592円(税込)
PCD-24818

1. Bosphorus
2. Avenue Amgala
3. Fleet Ballistic Missile Submarine
4. The Eccentric
5. Moon Palace

プロフィール
Amgala Temple (あむがら てんぷる)

JAGA JAZZISTのコア・メンバーであるLars Horntvethを中心にAmund Maarud、Gard Nilssenというノルウェーの異能プレイヤーが集結したジャズ・ロックプロジェクトAmgala Temple。2017年5月にノルウェー/オスロのクラブ“Grus Grus”で行われた3人による完全即興によるセッションから始まった本プロジェクトは当初バンド名もなかったが、同年9月に行われた2度目のライヴ・セッションはThe Amgala Temple(現時点ではTheは取れている)名義で行っている。本作『Invisible Airships』は彼らが行なったライヴでの即興演奏を新たにスタジオで再構築した初のレコーディングで、ジャズからプログレ~サイケ~クラウトロックまで取り込んだインプロヴィゼーションを展開していくライヴ感溢れるサウンドが特徴的な作品。2018年11月に本国ノルウェーでリリース後に本格的なライヴ活動を開始するが、アルバム収録曲がベースにありながらライヴの半分近くは即興だったりと二度と同じ演奏をしないライヴ・パフォーマーとしても熱狂的な支持を集めている。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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