マルコメ社員と料理家、世界一くさい缶詰を食べて発酵を語る

マルコメ社員と料理家、世界一くさい缶詰を食べて発酵を語る

インタビュー・テキスト
大北栄人
撮影:鈴木渉 編集:中田光貴、石澤萌(CINRA.NET編集部)

世界一くさい匂いは、なつかしさすら覚えるものだった

おだやか~、に缶は開いた。冬で保存状態もよかったのか開封時の飛沫はそれほどでもなく、魚の姿もきれいに残っていた。発酵が進みすぎると液体化するらしい。「言うほどでもなかったね」という顔をみんながするも、すぐに顔色が変わる。シュールストレミングの匂いである。これは強烈な匂いだ。なかなかにやるぞ、こいつは。

シュールストレミングの匂いに顔をしかめる筆者
シュールストレミングの匂いに顔をしかめる筆者

そろそろ田園調布の犬たちが騒ぎ始めるころだろうか。あたり一面が匂いに包まれるというわけではないが、風に乗って強い匂いが時折流れてくる。異文化を迎え入れる気持ちであれば平気である。しかし気を抜いたときに香ると思わず震える。匂いの強さがすごい。だがこの腐敗に近い発酵臭は、なじみがあるものだ。バキュームカーの隣に立ったとき、こういう匂いがする。

「世界一くさい」というのは誰も嗅いだことないようなものではなく、一般的な腐敗臭であり、なつかしささえ覚えるものだったのか。急にシュールストレミングに親近感がわいてきた。

なかにはニシンがたっぷり入っていた
なかにはニシンがたっぷり入っていた

場所を机に移してシュールストレミングをよく見てみる。きれいな魚の身だ。間近で嗅ぐと匂いのおおもととして魚があることがわかる。ああ、これは魚の腐敗臭が世界一級に強くなったものなのだ!

 

ニシンを見るとふつう食べないであろう背びれまでついてあるので、フォークでニシンの身を皮からこそいでいく。YouTubeでスウェーデンのかたが食べている様子を見ると同じように身を剥いでいた。

本場にならってフォークで身をこそいでいく
本場にならってフォークで身をこそいでいく

映像ではじゃがいもや玉ねぎ、バターや薄いパン生地と食べていたが、今回はマーガリンつきのバターロールに載せて食べる。まずは料理研究家の榎本さんとマルコメの尾田さんから。

 
 
 

「すごく塩からいです!」「マーガリンのせいか、匂いの強さはそんなに感じないです」と、先に食べた榎本さんたちは言う。口に入れるとそこまでくさくないのか。

 
この顔!
この顔!

筆者も恐る恐る食べた。匂いよりも「……しょっぱい!」がまず先行する。ふだん食べないレベルの塩辛さだ。匂いはたしかにそこまで気にならない。マーガリンの油脂と相まって匂いは「くさい」から「珍味っぽい」に変わっているようだ。「市場で見捨てられた魚の匂いが近い」と尾田さんは言っていた。なるほど。珍しいものを食べているなとは思うものの、おいしいとまでは言えない。ただ「……これ食べて大丈夫なのかな?」という不安や重苦しさは感じる。

ぷはっ。とはいえ気を抜くとやはり強い匂いがやってくる。私は今、一体なんでこんなものを食べているのだろうか。そもそもこれは腐ってはいないのだろうか。

「これだけ発酵しているのに身がくずれないってすごくないですか!?」「でも、これだけ塩分濃かったら腐らないでしょうね」と分析しつつ、すごいすごいと騒いでいる榎本さんと尾田さんにより深い話を聞くべく、暖かいカフェに場所を移した。

匂いになれてシュールストレミングに興味津々なふたり
匂いになれてシュールストレミングに興味津々なふたり
 
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プロフィール

マルコメ株式会社(まるこめかぶしきがいしゃ)

だし入りの味噌「料亭の味」や液状タイプで使いやすい「液みそ」を主力とする食品メーカー。近年は味噌づくりに欠かせない米糀と発酵技術を活かしたアルコール0%の「糀甘酒」が大ヒット。同じく味噌の主原料にある大豆では、高たんぱくで低脂質な「大豆のお肉」やグルテンフリーの「大豆粉」関連の商品が話題に。ベジタリアンやヘルシー志向の方にとどまらず、罪悪感のない食事を意味するギルトフリーの食生活を提案している。

榎本美沙(えのもと みさ)

料理家、発酵マイスター。広告会社勤務の傍ら、夫婦で一緒に料理を作るレシピ紹介サイト「ふたりごはん」を開設。その後、調理師学校を卒業し独立。「季節の手仕事・季節の料理」を忙しい人にも気軽にをモットーにレシピ開発をおこなう。主に「旬野菜、発酵の手軽料理」などの領域で、雑誌やWEBへのレシピ提供、企業のレシピ開発、料理教室、イベント出演などを行う。

大北栄人(おおきた しげと)

ウェブのライター、コントのユニット「明日のアー」の主宰。映像作品で『したコメ大賞2017グランプリ』受賞。アーは恥ずかしいことを思い出して出るうめき声のこと。いましてることはすべて明日のアーであるという自覚がある。

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