たまごっち生みの親、横井昭裕「変なことからメジャーが生まれる」

たまごっち生みの親、横井昭裕「変なことからメジャーが生まれる」

テキスト
唐川靖弘
撮影:升谷玲子 編集:久野剛士

うまくいかないときも楽しい。クリエイティブを支える「好き」という気持ち

バンダイという大企業で異端の社員時代を過ごしたあと、31歳で独立し、仲間と興した会社を育て、その会社を退いて現在に至る。そんな横井さんに組織での人の育て方を聞いてみた。

横井:とにかく人それぞれの個性を認めることかな。自身も含め、面白い人には「枠から外れる人」が多い。でも能力のない、冒険しない上司ほど、形で判断し、枠から外れる人を規則で縛ろうとする。そうすると組織に「トゲ」がなくなる。だからまずは、その人の良いところを認め合う空気を作ることが大事。枠から外れる人は、彷徨ったり紆余曲折あるかもしれないが、自分のアイデアを持ち、それに忠実に生きながら一番大切なものを曲げなければ、それで良いんじゃないかな。

横井昭裕

「雀聖」という異名を持つほど麻雀好きで知られた阿佐田哲也という小説家を引き合いに出して横井さんが笑った。

横井:阿佐田氏の言葉に、「麻雀好きだったら、負けているときも楽しいと思わなければならないんだ、好きっていうことはそういうことなんだ」というような節があるんですけどね。僕も相当いろいろな冒険をやって、自分の会社を興して辞めて、また1人に戻ったわけだけど、なんだかそれも楽しいな、と自然とそんな気分になっているんですよね。

企画した商品のすべてが「たまごっち」のようなヒットになったわけではない。上手くいくかどうかにはツキや運も関係するから一喜一憂はしないけれど、そのツキや運の流れを掴むには自分の実力を常に伸ばし続ける必要がある。だから未知の領域への好奇心に導かれ、すべての過程を楽しみながら歩き続ける。横井さんの姿に、僕の考える「うろうろアリ」の理想形をまたひとつ見た気がした。

唐川靖弘

取材の最後、地下にあるトレーニングルームに招待してもらった。僕も護身系の格闘技をやっていることをインタビュー中に話したからだ。使い込まれたサンドバックをさすっていると、 「ちょっと叩いてみてよ」と横井さんがパンチンググローブを差し出してきた。じゃあ、と軽く左、右と ワンツーを打ち、「横井さん、打ってみて下さいよ」とグローブを戻した。横井さんは「あ、じゃあちょっとだけ」と言いながら、メガネを外し、シャツを脱いだ。体勢を整えたあと、サンドバッグを真剣に、本当に真剣に叩き続けた。笑顔は完全に消えていた。わずか10秒にも満たない時間だったが、僕はものの見事に打ちのめされていた。

横井昭裕

「右のガードが下りる癖があるんだよね」と軽く呟く横井さんを見て、「好きなことには常にトコトン真剣に向き合わなければならないんだ」という横井さんのメッセージを感じた。「うろうろアリ」の大先輩にチャンスを頂いておきながら、いい加減なパンチを2発しか入れなかった自分を恥じた。今度横井さんのオフィスを訪問する機会があったら、マイグローブ持参で伺おうと思う。

 
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プロフィール

横井昭裕(よこい あきひろ)

株式会社ウィズ代表取締役社長。1955年東京都生まれ。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、1977年、株式会社バンダイに入社。キャラクター玩具、コンピュータゲーム、ファンシー雑貨など、幅広いジャンルの商品開発に携わる。1986年、自分の力を試してみたいと思い、株式会社ウィズを設立。玩具やゲームソフトの企画・開発を手がける。1995年に「たまごっち」企画を発案した“産みの親”。現在、同社代表取締役社長。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院 Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

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