身体改造ジャーナリストに聞く北欧カウンターカルチャーのリアル

身体改造ジャーナリストに聞く北欧カウンターカルチャーのリアル

テキスト
宮田文久
編集:吉田真也
2018/12/07
  • 366
  • 0

北欧がカウンターカルチャーを受け入れる理由は、国と子どもの未来のため

なぜ、北欧でこうしたカウンターカルチャーが花開き、しかも一般社会にも許容されているのだろうか。ケロッピーさんは、「カウンターカルチャーの始まりは、60年代にヒッピーたちが持ち込んだもの。その後、冷戦が終わって東西の壁がなくなり、さらに90年代のインターネット文化が盛り上がるなかで、一気に発達していきました」と、ヨーロッパ全体の背景を語りつつ、北欧ならではの事情を説明してくれた。

ケロッピー:北欧は各国の規模が小さいこともあり、新しいものに寛容でなければ、若者たちはイギリスやドイツ、フランスなど、ほかの大きな国家に憧れを抱き、成長とともに国を出ていってしまいます。日本の感覚では、カウンターカルチャーというと「メインストリームへの対抗」というイメージを持たれて、世間的に拒否反応が生まれることも少なくないですが、北欧では「若者が発信する新しいカルチャーを柔軟に受け入れていかないと、国としての先がない」という社会の共通認識があるんですよ。

なかでもノルウェーは小さな国ですから、その意識が強い。ボディサスペンションには国家から助成金が出ていますし、会場には家族連れも多く、小さな子どもたちの姿もよく見かけます。そして一緒に、吊られている人たちを見上げて、サーカスのように楽しんでいる。

家族連れでボディサスペンションを見ていた親御さんに話を聞くと、「世の中にはこういう人たちがいるということを、子どものうちに見せておかないといけない。10年後、20年後に世界が変わったときに、自分たち親の価値観だけで子どもを育てていくと、変化に対応できない弱い子どもになってしまう」と言っていました。その発言からも、若い世代のエネルギーや多様性を受け入れていくことが、国や子どもの未来につながっていくという、北欧ならではの考え方がうかがえましたね。

実際にボディサスペンションを見に来ていたご家族
実際にボディサスペンションを見に来ていたご家族

バイキングの時代から受け継がれる、独自の道をいく北欧の国民性

若者たちのエネルギーとともに歩むことは、これから先の時代を生き抜くための多様性を考えることと、強く結びついているようだ。そして、北欧がこうした社会になっていった背景には、彼らが刻んできた歴史の潮流が息づいている。その文化の核心を、ケロッピーさんは「自主独立性」という語で表現した。

ケロッピー:彼らはよく「自分たちにはバイキングの血が流れている」といいます。北欧がキリスト教化されるのは、およそ9世紀から11世紀にかけて。それ以前は、バイキングが力をもっていました。ほかのヨーロッパ諸国に比べて、北欧はキリスト教化されるのが遅かったのですが、バイキングだったという歴史的事実とその「自主独立性」に彼らは誇りを持っている。さらに、この精神は脈々と受け継がれているんです。

その象徴といえるのが、冒険家であり、人類学者であるトール・ヘイエルダールという人物です。世界的にもっとも有名なノルウェー人の一人であり、語り継がれる国民的なヒーローでもあります。彼は1947年にコンティキ号という古代の技術でつくったいかだの船で太平洋を横断し、「ポリネシアにたどり着いた最初の人類は、南米からやってきた」という説を自らの行動力で立証しようとしました。

オスロの「コンティキ号博物館」に飾られているトール・ヘイエルダールの写真
オスロの「コンティキ号博物館」に飾られているトール・ヘイエルダールの写真

ケロッピー:ヘイエルダールの仮説は、近年のDNA調査から覆されてしまいましたが、それでも「第二次大戦直後に、違う国の人々がじつはつながっていた」と、自身の体一つで主張したそのメッセージには、強い自立心がうかがえました。彼はまさに「自主独立性」の精神でもって、勇敢に、それこそバイキングのように、海に漕ぎ出していったのです。

トール・ヘイエルダールが英雄であり続ける理由は、北欧の人々がいまだ「自主独立性」に美学やプライドを感じている証拠。北欧は「のんびりしている」というイメージを抱かれがちですが、彼らが視野に捉える世界の広さ、そして彼ら自身のバイタリティは、本当にすごいんですよ。

ケロッピー前田さん

私たちが住んでいる現代日本において、この北欧のエネルギーと社会のありようを考えると、身につまされるものがある。「自由な空間を遊び場として残す、そうした余裕が大事」と最後に話してくれたケロッピー前田さん。

現在の一般的な価値基準からしたら、なんだかよくわからないようなことでも、「これをやりたい!」という若者がいれば、やらせてあげたほうが、面白いものが生まれる可能性も広がるかもしれない。国や子どもの未来を考えていくうえで、北欧のカウンターカルチャーから私たちが学ぶべきものはまだまだ多いはずだ。

Page 2
前へ

プロフィール

ケロッピー前田(けろっぴー まえだ)

1965年、東京生まれ。千葉大学工学部卒。白夜書房(コアマガジン)を経てフリーランスに。世界のアンダーグラウンドカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『ブブカ』『バースト』『タトゥー・バースト』(ともに白夜書房 / コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。近年は、TBSテレビ『クレイジージャーニー』にも登場し、ボディサスペンションをはじめとする、世界のカウンターカルチャーを紹介している。著書『CRAZY TRIP 今を生き抜くための“最果て"世界の旅』(三才ブックス)が話題に。

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。