身体改造ジャーナリストに聞く北欧カウンターカルチャーのリアル

本来の北欧のイメージとはかけ離れた、「北欧カウンターカルチャー」の実態

北欧というと、ナチュラルでスタイリッシュな家具のデザインをはじめ、充実した福祉や男女平等政策などの生活環境から、「ほっこりした雰囲気」を連想する人が多いだろう。たしかに、そうした北欧を象徴する主流文化は、どれも魅力的であり世界中の人の心を掴んでいる。

一方でじつは、日本からすると少々刺激的な「カウンターカルチャー」が北欧では花開き、一般社会にも根づきつつあるのをご存知だろうか。たとえば、ノルウェーの首都・オスロでは、フックを体に直接刺して吊るされるボディサスペンションが、家族連れで楽しめるエンターテイメントになりつつあったり、使われなくなったビルを若者がスクワッティング(不法占拠)して安く飲み食いできる場所として有効活用し、観光地化していたりする。日本だと怖そうなイメージが先行してなかなか実現しないであろう新たな文化が続々と生まれ、しかも社会がそれを受け入れているのだ。

そうした北欧のカウンターカルチャーは、「カウンター」という言葉の表面的な響きに収まらない、大きな影響力を持っている。なぜ、北欧では「若い世代のエネルギーが発揮される場」が抑止されず、社会的に許容されているのだろうか。

ノルウェーのスクワッティングビルは、若者にとってカルチャーシーンの登竜門

世界中のカウンターカルチャーに造詣が深く、TBSテレビ『クレイジージャーニー』の出演でも注目を集めている身体改造ジャーナリストのケロッピー前田さんは、何度も北欧を訪れるほど、北欧のカウンターカルチャーに魅せられた一人。ちなみに、彼が精通する「身体改造」とは、一般認知されているピアスやタトゥーをはじめ、習慣やファッションなどの一環として、身体を加工や装飾する行為の総称である。

そんな身体改造のなかでも、近年注目を集めているのがボディサスペンションだ。じつは、ノルウェーは「ボディサスペンションの総本山」といわれている。ケロッピーさんは、今年の夏も、ノルウェーの首都・オスロで開催されたボディサスペンションの世界大会『SUSCON(サスコン)』に参加してきたそうだ。

ケロッピー:『SUSCON』は、2002年から毎年7月に開かれ、4日間で世界中から集まった約100人の参加者をほぼ全員吊り下げる大会です。専用の道具や技術が確立されており、安全かつ衛生的な方法でいろいろな吊り方に挑戦できます。今回も、ボディサスペンションの愛好家たちは、それぞれ希望の吊り方を楽しんでいました。

ケロッピー前田さん

ボディサスペンションにおいて、世界最高峰の技術と道具、環境が揃っているノルウェー。その要因として、行政から資金援助を受けたことで、大手新聞やテレビでも好意的に紹介されてきたことが大きい。

安全に楽しめるものだと一般認知されたからこそ、大きな批判もなく、世界に先駆けた技術向上を促進できた。それが美的な洗練さの実現にもつながり、多くの人々を楽しませるエンターテイメントとして受け入れられ、やがて世界中のボディサスペンション愛好家が集まる「総本山」になったのだ。そして、オスロにはボディサスペンションだけではなく、それに関連する独特の若者文化がいくつも根づいているという。

ケロッピー:オスロは小さな都市ですから、地元のボディサスペンションの愛好家たちも、スクワッティングビルのコミュニティと接点をもっています。スクワッティングビルとは、そのまま訳せば「不法占拠ビル」のこと。

ですが、使われなくなったビルをそのまま荒廃させるよりは、不法滞在していた若者たちが自主的に管理して有効活用してもらったほうがいいだろうということで、ちゃんと手続きすれば行政にも認められるのです。アーティストを志す若者や、なにか新しいことを始めたいと思うノルウェーの若者たちにとって、カルチャーシーンにデビューする登竜門のような場所ですね。

オスロのスクワッティングビルに描かれたグラフィティ

ケロッピー:ノルウェーは物価も高いので、彼らはスクワッティングビルで共同生活して助け合いながら、文化活動の拠点にしているのです。近年、ノルウェーでは、ビーガン(完全菜食主義)も新しいカルチャーとして注目されていますが、これもスクワッティングビルを拠点に広まったもの。ビルのなかにレストランを設けて、そこで住人以外の観光客にもビーガン食の料理を提供しています。レストランだけでなく、ギャラリーやバーもある。若者が自分のやりたいことを発揮する場として活用しているんです。

ちなみに、今回訪れた『SUSCON』の参加費は4日間で3万円でしたが、そのなかに昼夜の食事代が含まれていて、「ブリッツ」というスクワッティングビルのビーガンレストランが食事をデリバリーしていました。

スクワッティングビル「ブリッツ」

ケロッピー:日本で「不法占拠ビル」と聞くと怪しくて怖い場所を思い浮かべると思いますが、いざ行ってみるとそんな雰囲気はありません。エネルギーのある若者たちの文化拠点としても非常に魅力的ですし、観光客でもフランクに明るく迎え入れてくれる。いまや観光スポット化していますね。

ノルウェーだけではない。北欧各国に見られる異質なカウンターカルチャー

北欧のカウンターカルチャーの隆盛は、ノルウェーに限ったことではない。デンマークの首都・コペンハーゲンには、これまた観光地としても名高い自治区・クリスチャニアがある。

もともとは、ナチス占領時代に基地として使われていたという負の記憶を持つ場所であり、長らく人が寄りつかなかった。しかし、1971年頃からヒッピーたちが不法占拠して独立自治体を形成していきました。家々にはカラフルな着色が施されて、自由を主張する場所になっていった。そこから、ケロッピーさんいわく「平和のユートピア」たる自治区として、人気を集めるようになったという。

ケロッピー:クリスチャニアも、歴史的に背負ってきた過去だけみると怖い場所だと思われる方が多くいますが、自給自足の精神があふれたエコの村なんです。その証拠に、クリスチャニアでは車移動が禁止されています。なので、住人の主な移動手段は、人力で運搬をするためにつくられた「クリスチャニアバイク」という大きな荷台の三輪自転車です。クリスチャニアバイクは、いまや世界へと輸出され、クリスチャニアの経済活動を支えています。

そして、カルチャーに触れたいデンマークの若者も、どこに行くかといえばクリスチャニアです。ノルウェーのスクワッティングビルと同じく、若者のエネルギーの象徴として観光地化しています。「カウンターカルチャーの聖地」と呼ばれるゆえんですね。

クリスチャニアの移動手段は、クリスチャニアバイクや自転車、馬など

また、スウェーデンでは、新しい身体改造の一種の「ボディハッキング」がテクノロジーの面でも役立ち、他国の一歩先を行く。その事例の一つが、2017年よりスウェーデン鉄道で導入された、乗客の体内に埋め込んだマイクロチップによって乗車ができる検札システム。日本にいれば驚くような物事が、北欧では着々と進んでいるのだ。

ケロッピー:スウェーデンが、体内に埋め込んだマイクロチップの実用化に積極的なのは、もともと財政難から社会的にキャッシュレスが進んでいたことも大きかったようです。カウンターカルチャーの担い手たちが推進してきたボディハッキングの有用性を行政が認めたからこそ、急速に広まったのです。いまでは、数千人以上のスウェーデン人が体内にマイクロチップを入れているといわれています。じつはぼくも、自分の手にマイクロチップを埋め込んでいるんですよ(笑)。

左手にマイクロチップを埋め込んでいるケロッピー前田さん。スマホでID認証するところを見せてくれた

北欧がカウンターカルチャーを受け入れる理由は、国と子どもの未来のため

なぜ、北欧でこうしたカウンターカルチャーが花開き、しかも一般社会にも許容されているのだろうか。ケロッピーさんは、「カウンターカルチャーの始まりは、60年代にヒッピーたちが持ち込んだもの。その後、冷戦が終わって東西の壁がなくなり、さらに90年代のインターネット文化が盛り上がるなかで、一気に発達していきました」と、ヨーロッパ全体の背景を語りつつ、北欧ならではの事情を説明してくれた。

ケロッピー:北欧は各国の規模が小さいこともあり、新しいものに寛容でなければ、若者たちはイギリスやドイツ、フランスなど、ほかの大きな国家に憧れを抱き、成長とともに国を出ていってしまいます。日本の感覚では、カウンターカルチャーというと「メインストリームへの対抗」というイメージを持たれて、世間的に拒否反応が生まれることも少なくないですが、北欧では「若者が発信する新しいカルチャーを柔軟に受け入れていかないと、国としての先がない」という社会の共通認識があるんですよ。

なかでもノルウェーは小さな国ですから、その意識が強い。ボディサスペンションには国家から助成金が出ていますし、会場には家族連れも多く、小さな子どもたちの姿もよく見かけます。そして一緒に、吊られている人たちを見上げて、サーカスのように楽しんでいる。

家族連れでボディサスペンションを見ていた親御さんに話を聞くと、「世の中にはこういう人たちがいるということを、子どものうちに見せておかないといけない。10年後、20年後に世界が変わったときに、自分たち親の価値観だけで子どもを育てていくと、変化に対応できない弱い子どもになってしまう」と言っていました。その発言からも、若い世代のエネルギーや多様性を受け入れていくことが、国や子どもの未来につながっていくという、北欧ならではの考え方がうかがえましたね。

実際にボディサスペンションを見に来ていたご家族

バイキングの時代から受け継がれる、独自の道をいく北欧の国民性

若者たちのエネルギーとともに歩むことは、これから先の時代を生き抜くための多様性を考えることと、強く結びついているようだ。そして、北欧がこうした社会になっていった背景には、彼らが刻んできた歴史の潮流が息づいている。その文化の核心を、ケロッピーさんは「自主独立性」という語で表現した。

ケロッピー:彼らはよく「自分たちにはバイキングの血が流れている」といいます。北欧がキリスト教化されるのは、およそ9世紀から11世紀にかけて。それ以前は、バイキングが力をもっていました。ほかのヨーロッパ諸国に比べて、北欧はキリスト教化されるのが遅かったのですが、バイキングだったという歴史的事実とその「自主独立性」に彼らは誇りを持っている。さらに、この精神は脈々と受け継がれているんです。

その象徴といえるのが、冒険家であり、人類学者であるトール・ヘイエルダールという人物です。世界的にもっとも有名なノルウェー人の一人であり、語り継がれる国民的なヒーローでもあります。彼は1947年にコンティキ号という古代の技術でつくったいかだの船で太平洋を横断し、「ポリネシアにたどり着いた最初の人類は、南米からやってきた」という説を自らの行動力で立証しようとしました。

オスロの「コンティキ号博物館」に飾られているトール・ヘイエルダールの写真

ケロッピー:ヘイエルダールの仮説は、近年のDNA調査から覆されてしまいましたが、それでも「第二次大戦直後に、違う国の人々がじつはつながっていた」と、自身の体一つで主張したそのメッセージには、強い自立心がうかがえました。彼はまさに「自主独立性」の精神でもって、勇敢に、それこそバイキングのように、海に漕ぎ出していったのです。

トール・ヘイエルダールが英雄であり続ける理由は、北欧の人々がいまだ「自主独立性」に美学やプライドを感じている証拠。北欧は「のんびりしている」というイメージを抱かれがちですが、彼らが視野に捉える世界の広さ、そして彼ら自身のバイタリティは、本当にすごいんですよ。

私たちが住んでいる現代日本において、この北欧のエネルギーと社会のありようを考えると、身につまされるものがある。「自由な空間を遊び場として残す、そうした余裕が大事」と最後に話してくれたケロッピー前田さん。

現在の一般的な価値基準からしたら、なんだかよくわからないようなことでも、「これをやりたい!」という若者がいれば、やらせてあげたほうが、面白いものが生まれる可能性も広がるかもしれない。国や子どもの未来を考えていくうえで、北欧のカウンターカルチャーから私たちが学ぶべきものはまだまだ多いはずだ。

プロフィール
ケロッピー前田 (けろっぴー まえだ)

1965年、東京生まれ。千葉大学工学部卒。白夜書房(コアマガジン)を経てフリーランスに。世界のアンダーグラウンドカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『ブブカ』『バースト』『タトゥー・バースト』(ともに白夜書房 / コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。近年は、TBSテレビ『クレイジージャーニー』にも登場し、ボディサスペンションをはじめとする、世界のカウンターカルチャーを紹介している。著書『CRAZY TRIP 今を生き抜くための“最果て"世界の旅』(三才ブックス)が話題に。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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