占星術研究家・鏡リュウジに訊く、なぜ人は占いに惹かれるのか?

占星術研究家・鏡リュウジに訊く、なぜ人は占いに惹かれるのか?

インタビュー・テキスト
夏生さえり
撮影:西田香織 編集:山元翔一(CINRA.NET編集部)

本能的なところに、占いの世界観が根差しているような気がするんですよね。

—世界観というのはどういうことでしょうか?

:たとえば、東洋医学を考えましょう。漢方薬局にいくと、占いでも用いられる木火土金水という「陰陽」の図があるでしょう? 東洋医学では例えば「五行」と人体の臓器が対応すると考えるんです。「世界の根本には5つの元素がある」と考えているわけです。

ですが、近代的な科学から見るとそれはもちろん、事実ではない。それでも、漢方の世界を理解して、実際に生きてみると効果が感じられる。だからまず「世界観」があって、そこに生きる人にはうまく作用することがある……というか。

鏡リュウジ

—それは信じ込むことで効果が現れる、「プラシーボ効果」みたいなものですか?

:東洋医学の場合には、今の科学の知見からしてもエビデンスを出せる部分もあるので、単純なプラシーボではないでしょう。でも東洋医学のベースにあるような思想は、今の科学とは相容れないですよね。

それでも漢方がこれほどまでに普及しているのは、「人間の心の動きの、ベーシックなところに根差しているからだ」と僕は考えています。そしてそれは占いの基盤と共通している。分類と意味の付与ってことなんですけどね。

—分類と意味の付与?

:はい、人は複雑な世界を、カテゴリに分けて考えないと把握できないんです。「陰陽」とか「男女」とかね。現実は厳密に見るとそんな区別なんかできないわけですが、シンプルな分類体系を想定することで世界が秩序づいて感じられる。

そういうふうにカテゴリ分けをして、一つひとつに意味を与えることで我々は物事を把握しているんです。そしてその「意味づけ」にはどうもかなり普遍的な「イメージ」があるような気もするんです。

たとえば色なんかは、かなり普遍的でしょう? 「赤」は情熱なイメージで、「青」は静かなイメージとか。世界中の人たちが、なぜか同じイメージを持って、同じような意味づけをしてしまう。こういう本能的なところに、占いの世界観も根差しているような気がするんですよね。でもだからといって、科学的に正しいかどうかっていうのは、別の話ですけどね。

左から:鏡リュウジ、夏生さえり

—なるほど……。いくら近代科学が発展しても、人間が何かを分類したり意味をつけたりする、心の動きはそう簡単には変わらない、と。

:そうです。我々は頭では誤りだとわかっているけど、「なぜかそう感じてしまう」ことが多いんです。たとえば「日は昇る」って言いますよね。

それから、人生の善し悪しことを表す用語のなかで、70%くらいが天気を表す用語と重なっていると言われているんです。「雲行き怪しいね」とか「光が見えてきた」「晴れ晴れする」「どんよりする」とか。天気に関する言葉が、自分の気分や今の仕事、恋愛などについて言い表す慣用句に使われている。これは言ってみれば、「天界」と「地上界」が同じように作動していると感じている、と言えるんじゃないかな、と。これらは科学とは関係のないところで「なぜか、そう感じてしまう」といういい例だと思います。近代以前の考え方と変わっていない部分ですよね。

—うーん、たしかに。科学的な根拠は何もないのに、天界と地上界をリンクさせて考えているっていうのは、面白いですね。

左から:鏡リュウジ、夏生さえり

:これは、近代以前の考え方と変わっていない部分ですよ。

—そうなんですか?

:はい。少し、僕の研究している占星術の話をしますね。もともと占星術は占いではなく、「サイエンス」でした。占星術を意味する「アストロロジー」は、「天体(アストロ)」と「学問(ロジー)」で「星の学問」、つまり天文学とは不可分だったんです。

17世紀にニュートンが出てきて「宇宙とこの世界は、同じ物理法則で動いている」ということを発見するまでは、天界は永遠に不変である「完全なもの」、そして地上は人が老けたり変化したりしてしまう「不完全なもの」と思われていました。不完全なものは、完全なものに従わなくてはならない。だから地上のことを知りたいなら、天界を知らなければ。まずは星のことを知りましょう……。占星術は、そういう星の学問だったんです。

—面白い。もともと人間は「天界」を身近に感じていたんですね。ちなみに占星術が「占い」になったのはいつ頃なんでしょうか?

:いわゆる「星座占い」になって、今のようにみんなが自分の星座を覚えるようになったのは、欧米でも1960年代くらいからではないでしょうか。ちなみに星座占いが日本に広がったのは、1966年ごろからでしょう。『西洋占星術』(1966年、光文社より刊行)っていう本がすごく売れたんです。

—それが今では、ほとんどの人が「自分は何座だ」と知っているのだからすごいですよね。

夏生さえり

—ニュートンの登場後、近代化が進んでもなお、未だに天気の言葉を気分にも当てはめてしまったり、事実とは異なるイメージ(や世界観)を持ってしまったり……。こういう人間のベーシックな部分が、占いを信じてしまう理由だ、ということですね。

:そうです。むしろ頭ではわかっていても、です。本当に意識をしていないところで、僕たちはあらゆる「占い的な考え方」を自然に受け入れているんですよ。「運だめし」「ゲン担ぎ」という言葉もそうだし、それから会社やブランドのロゴマークもそうで。

—ロゴマークも「占い」なんですか?

:「占い」とは言えないけど、シンボルを作って結束しようという考え方ですよね。それから「ブランド品を買う」っていうのも、ブランドが持つシンボルを「自分も身につけたい」ということですし。シンボルに意味を込めるというのも、人間が持つ「イメージ」にまつわることと言えますよね。

—なるほど……! シンボリックなものを信じたりそこにイメージを見出したりというのも、人間の生理的なものなんですね。

:占いというのは、人間の思考のベースにあるものと結びついています。いわば本能的な部分に根ざしている。それを洗練していくと体系的な占いになるんだと僕は思っています。

—めちゃくちゃ面白いです。

Page 2
前へ 次へ

プロフィール

鏡リュウジ(かがみ りゅうじ)

1968年、京都生まれ。占星術研究家・翻訳家。国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了。占星術の第一人者として、雑誌やテレビ、ラジオなど幅広いメデイアで活躍する。著書に『占星術の文化誌』『占星術の教科書』(原書房)、『タロットの秘密』(講談社現代新書)、訳書に『ユングと占星術』(青土社)など多数。英国占星術協会会員、日本トランスパーソナル学会理事、京都文教大学、平安女学院大学客員教授。

さえりさん

ライター。出版社、Web編集者を経て独立。Twitterのフォロワー数は合計18万人を突破。人の心の動きを描き出すこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。『口説き文句は決めている』(クラーケン)、『やわらかい明日をつくるノート』(大和書房)、共著に『今年の春はとびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所) Twitter:@N908Sa

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。