「好き」だけが仕事の基準。ifs未来研究所所長 川島蓉子が才人に愛される理由

「好き」だけが仕事の基準。ifs未来研究所所長 川島蓉子が才人に愛される理由

テキスト
唐川靖弘
写真:玉村敬太 編集:高橋直貴

「あのとき手を挙げなかったら、いまの自分はないわけで、何をもって失敗や成功となるかなんて分からないものだなって」

—新しいこと、知らないことに首を突っ込む。それは自分の居心地の良い場所から一歩踏み出すということでもあり、そう簡単なことではありませんよね。

川島:私の周りにいる経営者やクリエイターの方々は、みなさんそれぞれ専門領域をお持ちの方ばかりです。そんな知識は私にはもちろんないので、「わからないから教えてください!」とよく聞きます。

わからないことを聞くって大事だと思うんです。若いときには、わからないと言って質問すると怒られると思いがちなんですが、実際はわかった風に振る舞う方が為にならない。私にあるのは質問力とか、お願い力とか、家政婦力とかそういうものばかりですね(笑)。

—その力が全て川島さんの強さだと思います。若い頃から順調にキャリアを築いてこられたのですか?

川島:いえいえ、とんでもない! 社会人になって一番のショックが就職後すぐに訪れました。ifsという、有名商社グループで憧れのファッションの仕事に就けて、働く場所は青山のオフィス。それなりに自信を持っていたんですが、いざ入社すると何をやっても失敗ばかり。なんと自分は仕事ができない人間なんだと思い知らされ、落ち込みました。

川島蓉子

—何か印象的に残っている失敗談はありますか?

川島:当時の上司は、アナ・ウィンター(注:映画『プラダを着た悪魔』のモデルになった伝説の編集者)みたいな切れ者の女性でした。あるジュエリーのカタログ撮影のとき、コピーライターが書いたコピーに対して「こんなの使いものになんない」って怒り出して。それでただの現場アシスタントとして参加していた私に「あなた書いてみる?」って言ってくれたんです。「やります!」って手を挙げて、1ページ書いてみたら「上手じゃない! 他の部分も全部、明日までにやってみない?」って言ってくれて。大好きなアナに褒められて、書く仕事を任された。もう天にも昇るほど嬉しくて。

—すごい! シンデレラストーリーですね。

川島:ところがです。任された仕事は、24パターンのジュエリーの表現を書くという、徹夜しても間に合わないくらいのもの。夜も更けてきて朦朧とするし、そもそも当時は語彙も乏しいわけです。とにかく頑張って徹夜で仕上げていったら、私の書いたコピーを手に取った瞬間、アナの顔色がみるみる変わっていって「こんなの使いものになんないわ」って(笑)。そんな感じで、本当に大失敗の連続でした。

川島蓉子

—簡単にシンデレラになれたわけじゃないんですね(笑)。しかし、その状況で「やります」と言えるのはなかなか勇気のいることですよね。

川島:もちろん怖いんですけど、つい手を挙げてしまうんです。失敗は嫌だけど、恐れを凌駕するようなワクワクを感じて「その先に何が見えるんだろう」って好奇心で突き進む。そして突き進むとまた恐れがやってきて「出来なかったらどうしよう?」ってじくじく考えて(笑)。恐れとワクワクが常に共存している感じです。でも、あのとき手を挙げなかったら、いまの自分はないわけで、何をもって失敗や成功となるかなんて分からないものだなって、この歳になると思います。

結局のところ、何でこう次から次へと変なことやってるんだろうって、自分でもよく分からないんですよね(笑)。きっと死ぬまでそう思いながら自分が夢中になれることを追いかけ続けていくんでしょうね。

実は川島さん、成人したふたりのお子さんの「母」としての顔もお持ちです。ワークライフバランスという言葉が一般的でない時代から、ご自身の中に多種多彩な面を持ちつつ、しなやかに活躍してこられた方なのです。多様性に裏打ちされた懐の深さに、類まれなき好奇心。わからないことはわからないと素直に聞けるのも、謙虚で真直ぐな人間力の証だと思います。たくさんの失敗のなかから思いもしなかった道が出来上がり、その道をまた楽しんで歩く、という川島さんの姿は、降りられないほど高い松の木に登った少女が見た景色の遥か先に繋がっていたようです。

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プロフィール

川島蓉子(かわしま ようこ)

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科終了。伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)『ビームス戦略』(PHP研究所)『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)などがある。

唐川靖弘(からかわ やすひろ)

1975年広島県生まれ。外資系企業のコンサルタント、戦略プランニングディレクターを経て、2012年から米国コーネル大学ジョンソン経営大学院 Center for Sustainable Global Enterpriseマネージングディレクターとして、多国籍企業による新規ビジネス開発プロジェクトや新市場開拓プロジェクトをリード。自身のイノベーションファームEdgeBridge LLCを拠点に、企業の戦略顧問や人材育成プログラムディレクター、大学の客員講師としても活動。フランスの経営大学院INSEADにおいて臨床組織心理学を研究中。

連載『イノベーションを生む「うろうろアリ」の働き方』

変化のスピード増す現代において、既存の価値観や会社という枠組みに囚われないない「うろうろアリ」こそがイノベーションをリードする。自由な発想で新たな価値を生み出し続ける彼らの、最先端の働き方を紹介するインタビュー連載です。

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