Spotify×カセット店waltzの両極対談 激変する音楽業界の未来は?

Spotify×カセット店waltzの両極対談 激変する音楽業界の未来は?

インタビュー・テキスト
柴那典
撮影:田中一人 編集:竹中万季

こういう店をやっているとアナログ原理主義者みたいに思われがちですけど、全然違う。(角田)

―では逆に、角田さんはSpotifyをどう見ていますか?

角田:僕はもともとITの企業にいたので、デジタルに対する抵抗感がないんですよ。こういう店をやっているとアナログ原理主義者みたいに思われがちですけど、全然違う。AppleがiTunesをローンチさせたときには、持ってる1万枚以上のCDを全部データにしようとしてましたし。でも、あるときハードディスクが壊れてそれを全部失ったんですよ。それで一気に萎えましたね。

―それはツラい!(笑)

角田:で、2004年にSonic Youthのサーストン・ムーアが作った『Mix Tape: The Art of Cassette Culture』というアートブックと出会ってから自分の興味がカセットテープにシフトして、そこから収集を始めました。10年少しで1万本以上の数を所有するようになり、世界中のコレクターとトレードするようになって。気がついたら会社を辞めてこんなことをやっている。みんなに気が狂ってると思われているんですけど(笑)。

左から:野本晶(スポティファイジャパン)、角田太郎(waltz)

―角田さんは普段、ストリーミングで音楽を聴くようなことはありますか?

角田:僕自身は、カセットテープもCDもLPも何万枚もある環境にいるので、特にストリーミングを必要とすることはなかったんですけれど、この対談のためにSpotifyに会員登録したら、やっぱり面白くて。結局、有料会員になったんです。

野本:ありがとうございます。どんな感じで使われてますか?

角田:僕からすると、すごく使い勝手の良いメモ帳のようなものですね。持っている音楽は山ほどあるんだけど、何がどこにあるかすぐにわからない。選曲するにしても「あのCDはどの箱に入ってたかな」となるんです。そのときにSpotifyで検索すれば、付箋を貼るような感じでプレイリストを作っていける。

野本:Spotifyには、「+」ボタンを押すだけで好きな曲を「マイミュージック」という自分のレコード棚のようなものにしまっておけるシステムがあるんですね。長く使っていただくと、自分の音楽人生がそこにあるかのように感じられるかと思います。

インディーズを盛り上げていけば、メジャーも元気になってくると思うんです。(野本)

―角田さんがカセットテープ屋をやることの背景には、音楽業界全体を盛り立てていきたいという意志があるんですよね?

角田:そうですね。僕は前職のAmazonにも、CD販売のビジネスを立ち上げて軌道に乗せるために入っているんですね。もっと遡ると、キャリアの最初は「WAVE(1983年に六本木で開店したレコードショップ。音楽をはじめ様々な文化を発信していたが、1999年に惜しまれつつ閉店した)」のバイヤーだった。つまり、20年以上音楽を仕事にしてきたんです。音楽業界の栄枯盛衰を見てきた立場からすると、現状は決していい状況ではないと思うんですね。だから、もっと面白いことをして盛り上げていければと常に考えていました。

角田太郎(waltz)

―音楽業界の勢いが落ちてきたと考える、その理由はどう見ていますか?

角田:やっぱり短期的な成功を追いかけすぎたんじゃないですかね。1990年代後半からミリオンヒットが連発するようになって、規模で音楽を競う時代になった。瞬発力勝負になって、長期的にビジネスを作る戦略がなかったのかなという気はします。

特に、CDを売ることをビジネスにしているレコードショップは非常に厳しいと思いますね。普通のお店がネットでCD販売をしても、Amazonには勝てない。AmazonはCDを売るための会社ではないから、CDの利益が微々たるものでも、他の商品で大きな利益を得られれば良いというビジネスなので。

―野本さんはここ十数年の音楽業界の変遷をどう捉えてますか?

野本:僕ももともとソニーミュージックに10年いたし、あまり悪口は言いたくないんですけども、「着うた」の功罪もあると思っていますね。ビジネスになったのは良かったけど、商業主義的になったがゆえに、メジャーにおけるアーティストのバラエティーが減ってしまった。今の日本の状況としては、インディーズを頑張って盛り上げていかなきゃなと。そうすれば、メジャーも元気になってくると思っているんです。

今Amazonは音楽を販促物にしていますよね。会員になってくれたら、音楽聴き放題だという。(角田)

―Spotifyに関しても、音楽業界全体を盛り上げたいモチベーションがあるかと思うんですが、そのあたりに関してはいかがでしょうか。

野本:さっき「日本の音楽好きには二つのレイヤーがある」と話しましたけど、特定のアーティストが好きで、他の音楽の探し方がわからない人たちにも、もし「この曲も好きなんじゃないかな」とオススメしてくれる友達がいたら、それを聴いてみようってなると思うんです。

そういう音楽に詳しい友達の役割を、Spotifyのレコメンド能力が果たせると思ってます。そうなれば、たくさんの人がもっといろんな音楽を聴いてくれるようになって、日本の音楽も健全になる。そこをゴールとして考えていますね。

野本晶(スポティファイジャパン)

―先ほどの角田さんの話を踏まえて考えると、AmazonはCDだけじゃなくて日用品も家電も売っている。AppleやGoogleも音楽ストリーミングサービスだけじゃなく他のサービスも提供している。それに対してSpotifyは音楽だけを取り扱っていて、特殊なスタンスだと思うんです。

野本:「他の会社さんはいろいろやってらっしゃるけど、Spotifyは音楽専業だから応援します」というようなことを、アーティストやレーベルの方に言っていただくことが多いです。

角田:僕もそれはすごくいいことだと思いますよ。僕はAmazonに育ててもらったので悪く言うつもりはないんですけど、今Amazonは音楽を販促物にしていますよね。年間3,900円でAmazonプライムの会員になってくれたら、音楽聴き放題だという。そういう打ち出しをするのは音楽業界にとっては良くないことだろうと思います。つまり、音楽に価値を感じさせないわけですから。

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プロフィール

野本晶(のもと あきら)

1970年生まれ、愛媛県出身。スポティファイジャパン株式会社でライセンス&レーベルリレーションズディレクターを務める。ソニーミュージック、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現・ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、ゾンバ・レコーズ・ジャパン、ワーナーミュージック・ジャパンを経て、2005年からiTunes株式会社にてミュージック担当としてiTunes Storeの立ち上げに参加。2012年9月より現職。

角田太郎(つのだ たろう)

1969年生まれ、東京都出身。CD・レコードショップの「WAVE」でバイヤーを経験後、2001年にアマゾンジャパンに入社。音楽、映像事業の立ち上げに参画し、その後、書籍事業本部商品購買部長、ヘルス&ビューティー事業部長、新規開発事業部長などを歴任し、2015年3月に同社を退社。同年8月、中目黒にカセットテープやレコードなどを販売するセレクトショップ「waltz」をオープンした。

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