小倉悠加×神前暁が語る、映画界でポストクラシカルが示す存在感

小倉悠加×神前暁が語る、映画界でポストクラシカルが示す存在感

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
編集:石澤萌(CINRA.NET編集部)

「いやあ、菅野さん凄かったね。あのレベルについていくのはものすごく大変だ」と言ってました。(小倉)

―小倉さんは、菅野よう子さんのレコーディングもアテンドしたそうですが、そのときのエピソードも聞かせてもらえますか?

小倉:『残響のテロル』(2014年、フジテレビ系列)は、監督の渡辺信一郎さんがSigur Rósをヘッドフォンで聴きながら描いた作品なので、アイスランドのミュージシャンと一緒にサントラを作りたいという思いがあったそうです。だから、レコーディングはSigur Rósのスタジオがいい、と。

ただ、彼らのスタジオはコミュニティプールを改造したもので、いわゆるプロユースの完璧な防音遮音設備が整った、密閉されたスタジオではないんですよね。例えば飛行機が飛んでいると聞こえてくるし、風が強いときは風の音も入ってくる。「それでも本当にいいんですね?」と念を押したことを覚えています(笑)。あと、ちょうどエンジニアさんのところの子犬が生まれたときで、レコーディングには毎回その子犬を連れてきていたんですよ。子犬がブースにいる中でレコーディングが行われるという、日本のレコーディング現場ではあまり見られない光景がありましたね。よくも悪くもゆるい環境なんです。

Sigur Rósのスタジオの様子が見れる。本動画はドラム音源パッケージのPRのために作成されたもの

―ミュージシャンのブッキングも小倉さんが行ったのですか?

小倉:最初にお話ししたようにミュージシャン人口も少ないですから、あるミュージシャンがスケジュール的にNGとなったときに代わりがいない。なのでスケジュールを抑えるのにもとても苦労しました。

―実際に菅野さんのレコーディングを観て、どんな印象でしたか?

小倉:菅野さんに関して私自身がすごいと思ったのは、コード譜をその場でミュージシャンたちに渡して「出だしはこうで、テンポはこう。それでなんでもいいから弾いてみて」って。それを録音しつつヘッドアレンジでブラッシュアップしていたのは衝撃的でした。あんなふうにレコーディングってするものなのですか?(笑)

神前:すごく理想的なスタジオワークですよね。僕もやってみたいのですが、日本のスタジオだと時間も限られているし、実際のところは事前にデモを作り込んで置いて、それを元に演奏や録音を行うという感じでしたね。なので、アイスランドまで赴いて、そんなリスキーなヘッドアレンジをやってしまえる菅野さんの心臓の強さになにより驚きました(笑)。もちろん、菅野さんは元々楽譜に強いしピアノの腕も素晴らしい方。スタジオワークもたくさん経験されているので、それらを経てのアレンジ方法だったのかなと思いますね。

小倉:アイスランドのミュージシャンたちも、まさかそんな手法で作るとは思っていなかったようで。スタジオのエンジニアに後から話を聞いたら「いやあ、菅野さん凄かったね。あのレベルについていくのはものすごく大変だ」と言ってました。自分たちの技量を信じてくれた上に好きに演奏させてもらえたことが本当に嬉しかったみたいです。神前さんは、これまでに海外レコーディングをされたことはあるのですか?

神前:一度、オーストラリアでオーケストラを録ったことはありますが、そのときはいっぱいいっぱいで、いい化学変化というよりは、必ずしも思い通りの演奏にならないことに対して、ちょっとフラストレーションの方が多かったです(笑)。

小倉:コロナが終息したら是非、アイスランドにいらしてください!

―神前さんは今後、ポストクラシカル的な要素をご自身の音楽にどう取り入れていきたいですか?

神前:サントラはもちろん、歌モノでも音響的なアプローチをしていけたらいいなと思っています。最近はゼッドやポーター・ロビンソン、イレニアムなど30歳くらいのEDMアーティストたちが、明らかにヨーロッパの影のある抑制の効いた音楽に接近していて。そこにジェフ・バーロウ(イギリスのバンド、ポーティスヘッド / ビークのメンバーで音楽プロデューサー)あたりの影響なども感じてすごく懐かしさと親近感を覚えるんですよね。

そういえば先日、マッツ・ミケルセン(デンマーク出身俳優)が出ている映画『残された者 -北の極地-』を観たのですが、アイスランドを舞台にしたサバイバルムービーだったんですよ。過酷な自然の風景がたくさん映し出されるのですが、音楽がジョセフ・トラパニーズというアメリカのミュージシャンによるもので、非常にアイスランドっぽい音楽でした。

『残された者 -北の極地-』(英題『Arctic』)予告編

小倉:今、ググってみたけど寒そうな映像!(笑)日本とは寒さの質が違うんですよね。あと、アイスランドは日本のように街中に音楽が溢れていないというか、自然の音しかないからこそより音楽が心に響くところも多分にあると思います。これからもきっと、アイスランドからは面白いアーティストがどんどん出てくると思うので、是非とも注目してもらえたら嬉しいです。

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リリース情報

『神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”』

2020年3月18日(水)発売
価格:4,290円(税込)
SVWC-70507~70509

プロフィール

神前 暁(こうさき さとる)

1974年9月16日生まれ、大阪府出身の作・編曲家、音楽プロデューサー。京都大学工学部卒。在学中は作曲サークル「吉田音楽製作所」に所属し、同人として活動を行なう。卒業後に株式会社ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に入社、サウンドクリエイターとして『鉄拳』シリーズや『太鼓の達人』シリーズ、『THE IDOLM@STER』など多数の作品に関わる。2005年にナムコを退社し、クリエイター集団MONACA(有限会社モナカ)に所属。アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』スタッフ参加をきっかけに注目を浴びる。

小倉悠加(おぐら ゆうか)

1970年代半ば洋楽に目覚め、高校時代アメリカへ留学。大学時代から来日アーティストの通訳に従事し、レコード会社勤務を経てフリーに。カーペンターズの解説・対訳の多くを手がけ、カーペンターズ研究家と呼ばれることも。2002年アイスランド音楽サイトのコンテンツ制作をきっかけに、以来、アイスランド文化を幅広く紹介。2017年からアイスランド在住。アイスランド・ミュージック・エクスポート(アイスランド産業省外郭団体)より、「アイスランド音楽大使」の名誉称号を受ける。

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