北欧サッカーの完成型スウェーデンに学ぶ、ベスト8進出への鍵

北欧サッカーの完成型スウェーデンに学ぶ、ベスト8進出への鍵

テキスト
宇野維正
編集:木村直大、山元翔一
2018/08/10
  • 184
  • 6

北欧勢に見るサッカーのリアリズムと父子鷹

同じ北欧からは、スウェーデンとデンマークがロシア大会に出場。絶対的エース、ズラタン・イブラヒモビッチ(2016年に代表引退)を擁しながら2010年の南アフリカ大会、2014年のブラジル大会と連続して本戦出場を逃していたスウェーデン代表は、前線のタレント不在による攻撃力不足という前評判を覆してベスト8まで進出。

「ボールは相手チームに持たせ、ディフェンス陣の高さを生かした鉄壁の守りと、クリアやこぼれ球からのカウンター攻撃」という北欧型サッカーの完成形とも言えるその試合内容は、サッカーのリアリズムとは何かを考えさせてくれるものだった。華麗なプレーで魅せるのではなく、相手チームの良さを徹底的に消していくのがスウェーデン代表のサッカー。グループリーグ3試合で、スウェーデン代表が相手チームのボールをクリアしたのは32か国中トップの108回。ゲームの流れが中断されてばかりなので、正直、自国を応援するサポーター以外が見ていて楽しいサッカーではない。しかし、ここまで徹底して初めて「自分たちのサッカー」という言葉は説得力を持つのだろう。日本代表のプレーヤーやそれを取り上げるメディアは「自分たちのサッカー」という言葉を安易につかいすぎているように思う。

イブラヒモビッチの不在を感じさせず、躍進を遂げたスウェーデン代表 作者 Кирилл Венедиктов (soccer.ru) [CC BY-SA 3.0 GFDL, CC BY-SA 3.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) または GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons
イブラヒモビッチの不在を感じさせず、躍進を遂げたスウェーデン代表 作者 Кирилл Венедиктов (soccer.ru) [CC BY-SA 3.0 GFDL, CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) または GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons

デンマーク代表で最も注目を集めていたのは、ゴールキーパーのカスパー・シュマイケルだ。デンマーク代表歴代キャップ数ナンバーワン、1990年代を通してマンチェスター・ユナイテッドのゴールマウスを守り続けてきたことでサッカーファンにはお馴染みのピーター・シュマイケルの息子であるカスパーは、親子ともども同じポジションのワールドクラスプレーヤーというサッカー史的にもほとんど前例のない存在。

プレミアリーグのレスター・シティで活躍するカスパー・シュマイケル 作者 Ben Sutherland from Crystal Palace, London, UK (DSC01416) [CC BY 2.0  (https://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons
プレミアリーグのレスター・シティで活躍するカスパー・シュマイケル 作者 Ben Sutherland from Crystal Palace, London, UK (DSC01416) [CC BY 2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons

デンマーク代表のプレースタイルも前述した北欧型に準じたもので、スウェーデン代表ほどの完成度ではなかったものの、そこで最後の砦を守り続けたカスパーの活躍もあって2002年の日韓大会以来となるベスト16に進出。決勝トーナメントのクロアチア戦はキックオフから4分で1点ずつ奪い合い、その後、約120分間膠着状態が続くという稀に見る試合展開に。延長後半残り4分というタイミングでカスパー・シュマイケルがモドリッチのPKを止めた瞬間にはデンマークの国中が沸き立ったとのことだが、その数分後、絶対有利と思われたPK戦で惜しくも敗退。結果的に、デンマーク戦での死闘で完全覚醒を果たしたクロアチア代表は、その勢いで決勝まで突き進んでいった。

カスパーの父でマンチェスター・ユナイテッドのレジェンド、ピーター・シュマイケル 作者 Carlsberg (mynewsdesk) [CC BY 3.0  (https://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons
カスパーの父でマンチェスター・ユナイテッドのレジェンド、ピーター・シュマイケル 作者 Carlsberg (mynewsdesk) [CC BY 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons

ベスト8進出に立ちはだかる大きな壁

今大会でベスト16に勝ち残った国は、ヨーロッパは10か国、南米及び北中米は5か国、アジアは1か国(日本)、アフリカや中東からはゼロという結果に。改めて、よくぞ日本がそこに残ったものだと感心してしまうが、ベスト4まで勝ち進んだのはすべてヨーロッパのチームという偏った結果に。ベスト16に残ったブラジル、アルゼンチン、コロンビア、ウルグアイの南米各国の代表チームも、そのほとんどのプレーヤーはヨーロッパのリーグで活躍する選手たちで構成されていた。実質的に今回の日本代表の健闘も、ヨーロッパのリーグで日々揉まれている個々のプレーヤーたちの戦術への理解と適応力があったからこそだと言える。

決勝トーナメント進出に大きく貢献した乾も、スペインリーグでプレーしている 作者 Светлана Бекетова (https://www.soccer.ru/galery/1056314/photo/735038) [CC BY-SA 3.0 GFDL, CC BY-SA 3.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) または GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons
決勝トーナメント進出に大きく貢献した乾も、スペインリーグでプレーしている 作者 Светлана Бекетова (https://www.soccer.ru/galery/1056314/photo/735038) [CC BY-SA 3.0 GFDL, CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) または GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons

今回、日本代表は日韓大会、南アフリカ大会に続いて三たびベスト8の壁の前に沈んだわけだが(今大会の日本代表の目標はベスト8進出で、それを前提に各予算も組まれていた)、ベスト16に進んだヨーロッパ10か国のうち北欧からの2か国、スウェーデン代表とデンマーク代表も、この20年間の6大会では最高でもベスト8止まり。今回スウェーデン代表は、実力差がほとんどなく、プレースタイル的にも相性が良かったヨーロッパの中堅国スイス(相手にボールを持たせたがるスウェーデンと、それまでの3試合もボール保有率の高かったスイス)とベスト16で当たるという幸運もあって、なんとかベスト8まで進出することができたが、大会全体を見ていて、ベスト16とベスト8の間には相当高い壁があることを痛感させられた。

ワールドカップでベスト8の先まで進むには、今回のスウェーデン代表のような自国のサッカースタイルの確立や洗練だけでなく、そのさらに上のレベルでの戦術的な柔軟性、そして「それを言ったらおしまいよ」ではあるが、やはりワールドクラスのタレントが必要とされるのだろう。あるいは、今回のロシア代表がそうであったように自国開催というアドバンテージか。いずれにせよ、自国の育成システムやサポーター文化の成熟から、協会の国際的政治力まで、サッカーの世界では一朝一夕で成し遂げられるものは何一つないのだ。

作者 Кирилл Венедиктов (soccer.ru) [CC BY-SA 3.0 GFDL, CC BY-SA 3.0  (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) または GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons
作者 Кирилл Венедиктов (soccer.ru) [CC BY-SA 3.0 GFDL, CC BY-SA 3.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0) または GFDL (http://www.gnu.org/copyleft/fdl.html)], via Wikimedia Commons

Page 2
前へ

Category カテゴリー

Latest Articles 最新の記事

What's "Fika" ? フィーカとは

「Fika」はCINRA.NETとVOLVOが送る、北欧カルチャーマガジンです。北欧デザインの思想の基盤を「クラフトマンシップ×最先端技術」と捉え、そこに学びながら、これからのカルチャーやライフスタイルにまつわるコンテンツをお届けします。