落合陽一講演。既存システム脱却が、ダイバーシティの真価を生む

日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念。各界のトップが集結したビジネスサミット

「多様性」を意味する、ダイバーシティという言葉。日本では、企業において性別や国籍に捉われず人材を活用するなど限定的な局面で多く使用されており、言葉だけが一人歩きしているような印象を受ける。

さまざまな違いを受け入れ、その価値を生かす。ダイバーシティという言葉の本質を捉え、イノベーションを生み出しているのが、落合陽一だ。そんな彼が、4月24日に六本木アカデミーヒルズで開催された『日本・スウェーデン ビジネスサミット』に登壇し、英語で講演を行った。

落合陽一

今年2018年、日本とスウェーデンは外交関係樹立150周年を迎えた。年間を通して、音楽やアート分野のイベント開催をはじめ、さまざまな祝賀イベントが両国で行われる。その一環として開催された『日本・スウェーデン ビジネスサミット』では、「グローバルビジネスの改革 -破壊的イノベーションの時代に競争力を維持するために」をテーマに、「ヒト」「イノベーション」「パートナーシップ」の3つの視点から、これからのビジネスのあるべき姿が語られた。

本イベントの基調講演に登壇した落合は、自身が2018年に発表した書籍のタイトルにもなっている「日本再興戦略」を提唱。25分という短い持ち時間のなかで、中身の濃い講演が展開された。

アーティスト、教育者、経営者。3つの顔を持つ落合陽一の考える日本再興戦略

挨拶も早々に、自身のことや取り組んでいるプロジェクトについて早口で紹介していく落合。彼は現在、メディアアーティストとして活動する傍ら、筑波大学で学長補佐を務め、2017年には、自身が代表を務めるピクシーダストテクノロジーズ株式会社と同大学による特別共同研究事業をスタート。同大学内に「デジタルネイチャー推進戦略研究基盤」を設立した。教育機関と民間企業が連携し、新たな技術や事業を創出する産学連携に挑戦している。たとえば、ある特定の空間にだけ音を飛ばせる焦点スピーカーを開発。アートやエンタメの領域で新たな体験を生み出しているほか、複数の同時翻訳音声を打ち分けるなど応用が期待されている。

この産学連携への画期的な取り組みは、アーティスト、教育者、経営者という多様な役割にシナジーを生み出した、落合ならではのものといえるだろう。これまで日本の大学では、企業との共同研究は教授陣にとってボランティアベースで行われていた。落合は、その状態では産学連携をスケールさせることが難しいと考え、企業から給与を発生させることで、企業と大学、教授陣がフェアな関係を築けるスキームを構築した。研究に参加した学生に賃金を払うことも可能だという。海外では、すでに大学と企業の共同研究に賃金が発生するスキームが確立していたが、日本で何十年も変わっていなかったシステムに一石を投じたわけだ。

今回の講演で語られた「日本再興戦略」とは、このような産学連携の改革を含め、長きにわたり変化してこなかった日本をアップデートしていく方法をまとめた提案である。

落合:20世紀は人がソリューションを提供してきました。しかし、21世紀はその役割をAIが担うことになる。だから、これからの時代に合った日本のグランドデザイン(壮大な目的を達成するための全体構想)を考えていかなければいけません。

落合陽一

著書の『日本再興戦略』(幻冬舎)において、隆盛を極めた高度経済成長期の正体を「均一な教育」「住宅ローン」「マスメディアによる消費者購買行動」としているが、こうした価値観はもう時代に合わないと彼は説く。高度経済成長期の日本は人口増加の真っ只中にあり、そうした人的資源を最大限に発揮するためには、機械親和性が低く、代替性の高い人間を生産する仕組みが最適だった。それをマスメディアが後押しした。しかし、これからは画一的な行動を取れる能力は、自動化や統計的処理などのテクノロジーに勝つことができない。既存のシステムを根本から変えていく必要があるわけだ。

中央集権型から地方分権型へ。落合陽一が提唱する新たな日本のグランドデザイン

近年、さまざまなテクノロジーが発展している。それによって起こるパラダイムシフトにより、人々の生活は大きく変化していくだろう。近い将来、車を運転する必要はなくなるかもしれないし、機械の外骨格をつければ体の不自由を意識しなくてもよくなるかもしれない。また、仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーンがさらに発展して、トークンエコノミー(代替貨幣によって生み出される経済)が普及すれば、お金の概念が変わるかもしれない。

また、これからの世界は、VRや空間ホログラムなどの技術発展によって、自然物と人工物の垣根がどんどんなくなっていく。落合はこの状態のことを「デジタルネイチャー(計算機自然)」と呼び、ロボットと人間、CGと実物などが融合していくと説明する。そのなかで、眼鏡をかけることがファッションの一要素となったように、身体の障碍(障害)とされているものがテクノロジーの力によって障碍ではなくなっていく。「健常」という概念がなくなることで、あらゆるところで多様化が生まれ、ダイバーシティ化が加速していくという。

落合陽一

落合:これまでの日本の社会は中央集権型を採用していました。太い幹があり、そこから枝葉に分かれていくような。しかし、多様化が進んだ社会では地方分権型のほうがうまくいくはずです。そうした未来をどのように構築していくか。そのための方法を考えていきたいと思っています。

ダイバーシティ化に対応するための日本のあるべき姿、その姿を実現するまでの課題を最後にスピーチし、約25分の講演は終了した。

日本とスウェーデンの両国のさらなる発展のために。落合陽一が投げかけたもの

今回の基調講演で語られたことは、彼が提唱する「日本再興戦略」のなかの極一部でしかない。だが、それでも何かを感じた人は多かったに違いない。

特に、スウェーデンはダイバーシティ化が大きく進んでいる国だ。人種や宗教、政治に関することはもちろんだが、2009年には同性婚も合法化され、差別禁止法も導入されている。とにかく多様性に寛容な社会といえる。

また、世界有数のイノベーション国家としても知られており、そのランキングはつねに上位にある。しかし、今から100年ほど前、スウェーデンはヨーロッパでも最も貧しい国のひとつだったという。新しいアイデアやトレンド、テクノロジーなどを積極的に受け入れてきたことが、現在の発展につながっているのだ。その結果、IKEA、VOLVO、H&Mなどのようなグローバルカンパニーを生み、「Spotify」や「Minecraft」などの話題のグローバルブランドが生まれた。

国際社会にいち早く対応したスウェーデンの姿には、日本のこれからの発展に役立つヒントになる面も多いだろう。日本にとっては、ダイバーシティを受け入れ、その多様さにシナジーを生み出すような仕組みづくりを考えていくことが、重要なのではないだろうか。

イベント情報
『日本・スウェーデン外交関係樹立150周年 祝賀イベント』

1868年に日本とスウェーデンが初めて外交関係樹立を結んでから、2018年で150周年。政治、経済、学術、文化など、さまざまな分野で緊密な関係を築いてきた両国の外交関係節目の年を記念して、1年を通して多くの祝賀事業が開催される。その一環として開催された『日本・スウェーデン ビジネスサミット』では、カール16世グスタフ国王のほか、スウェーデン企業75社を含む両国の企業関係者、政府関係者など約230人が出席した。

プロフィール
落合陽一 (おちあい よういち)

1987年生まれ。メディアアーティスト。筑波大学でメディア芸術を学び,東京大学で学際情報学の博士号を取得。2015年より筑波大学助教。映像を超えたマルチメディアの可能性に興味を持ち、デジタルネイチャーと呼ぶビジョンに向けて研究に従事。情報処理推進機構よりスーパークリエータ / 天才プログラマー認定に認定。2015年、世界的なメディアアート賞であるアルスエレクトロニカ賞受賞など、 国内外で受賞歴多数。主な著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『超AI時代の生存戦略』(大和書房)。国内外を問わず雑誌・テレビ・ラジオなどメディア露出も多いほか、国内外の大学やTEDxTokyoなどシンポジウムでの講演も行っている。



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かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしてい「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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