モルックにつづけ。薪投げスポーツ「クッブ」でオテンキのりが世界を目指す

スウェーデン生まれの薪投げスポーツ「クッブ」。1995年にスウェーデン沖のゴットランド島で誕生し、ヨーロッパやアメリカを中心に愛好者が増えているといいます。2005年には日本にも上陸し、ジャパンオープンをはじめとする大会も多数開催されているのだとか。

じわじわと人気が拡大しつつあるクッブのおもしろさを体験するべく、日本クッブ協会副代表理事の河原塚達樹、協会公認普及指導員で芸人のオテンキのりともに、実際にプレーしながらお話をうかがいました。

的当てと陣取りのおもしろさが融合したゲーム

―そもそもクッブとはどんな競技なんでしょうか?

河原塚:スウェーデン沖にあるゴットランド島で誕生した新しいスポーツです。もともと、ゴットランド島では古くから「Kubb(クッブ / 薪)」を使った遊びが行なわれていました。それを、1995年に町おこしの一環として競技化し、世界大会を開いたのが成り立ちですね。以来、スウェーデン国内はもとより、ヨーロッパやアメリカ、そして日本でも2005年から普及が進んでいます。

左から:日本クッブ協会の河原塚、協会公認普及指導員の資格を持つ芸能界イチのクッブ好きであるオテンキのり。河原塚自身のクッブの腕前も一流で、のりは「師匠」と仰ぐ

河原塚:なお、基本的なルールは以下のとおりです。

・使用する道具は以下。
10個の「クッブ(高さ15センチの四角柱の木)」
6本の「カストピンナ(長さ3センチの丸い棒)」
1個の「キング(高さ29センチの四角柱の木)」

・コートは縦8メートル×横5メートル。自陣と敵陣のベースライン上にそれぞれ5個ずつ等間隔でクッブ(ベースクッブ)を並べ、コートの中央にキングを置く。

・基本は1チーム6人制(1チーム、1人から10人程度まで可)。先攻・後攻に分かれて交互にカストピンナを敵陣のクッブめがけて投げ、敵陣のベースライン上にある5本すべてを倒す(※カストピンナをリレーのバトンのように縦にまっすぐ持ち、アンダースローで投げるのがルール)。

・敵陣のクッブをすべて倒すと、コート中央のキングを攻撃する権利を得られる。カストピンナをキングめがけて投げ、倒せば勝利(※敵陣のクッブが残った状態でキングを倒してしまうと負け)。

・大会など、時間の制約がある場合は時間制(20分から30分)で行なう。この場合、制限時間が経過した時点から後攻チームの攻撃終了まで行ない、終了時に自陣にあるクッブの数が多いチームの勝利となる。同数の場合はベースクッブの多いチームの勝利。
 

河原塚:また、ベースライン上に並べる「ベースクッブ」のほか、敵に倒されたクッブを相手陣内のコートに投げ返す「フィールドクッブ」というルールもあります。自陣の攻撃の際はまずそのフィールドクッブから倒さねばならず、フィールドクッブが残ってしまうと、次の相手チームの攻撃はフィールドクッブの立っている位置から投げることができるので、コートのどこに投げ返すかも大事になってくる。的当てゲームであると同時に、陣取りゲームのような戦略的要素も絡んでくるのがクッブのおもしろさだと思います。

バトン状のカストピンナ(手前)でクッブ(左奥)を倒す。敵陣のクッブをすべて倒すと、キング(右奥)を倒す権利を得られる
思ったよりルールが複雑だが、実際にやってみるとすぐに覚えられる。この日は初心者である編集部員2名が体験。のりチーム、河原塚チームに分かれて対戦してみた

年齢・体力に関係なく誰でも楽しめる

―のりさんは1年前にクッブを始めたそうですが、どんなところにおもしろさを感じますか?

のり:まず、初心者にやさしいところですね。言ってしまえば棒を投げるだけだから、年齢や体力に関係なく多くの人が楽しめます。もちろん、練習すればするほど上手くなるけど、初心者が経験者に勝ててしまうことも全然ある。ビギナーズラックが起こりうるのがいいですよね。

―先日、のりさんのチームが参加した大会もビギナーの方が多かったそうですね。

のり:ジャパンクッブオープンですね。ぼくは当日に仕事が入って出られなかったので、後輩芸人のちゃーはん天野とスタッフさんの2名で「オテンキのりーず」として参加してもらいました。ちなみに、そのときの様子をYouTubeにアップしたんですけど、ちゃーはん天野が試合の様子をろくに撮らずになぜかグルメレポートばっかりしてやがります。まあ、それでもなんとなく大会の雰囲気は感じてもらえるかな。

オテンキのりYouTubeチャンネル

のり:ちなみに、ちゃーはん天野は完全な初心者なんですけど、しっかり1勝を挙げています。きっとボロ負けするだろうとチーム名を「オテンキのりーず!伝説の幕開け!第一章 ~歴史的大敗~」にしたのに、まさか勝ってしまうという。でも、それくらい運の要素も強い競技なんですよ。

河原塚:ちなみに一昨年のジャパンクッブオープンでは、平均年齢70歳のチームが20代のチームを撃破して3位に入賞しています。それくらい体力差に影響されず誰でも対等に戦える競技って珍しいですよね。

自陣のベースライン手前から敵陣のベースライン上にあるクッブをめがけてカストピンナを投げる
アンダースローで投げるのがルール。カストピンナはバウンドさせてもOK

―ちなみに、のりさんはどんなきっかけでクッブを始めたんでしょうか?

のり:「さらば青春の光」の森田哲矢さんが2019年にモルックというスポーツの日本代表として世界大会に出場したんですけど、正直いいな、うらやましいなって思って(笑)(参考記事:さらば青春の光・森田らが世界大会へ。「モルック」ってなんだ?)。一生のうち、世界大会に出られることってないじゃないですか。ぼくも柔道では千葉県代表になりましたけど、やっぱり日本代表になってみたかった。モルックでもよかったんですけど、ちょっと二番煎じ感があるかなと思って別の競技を探したらクッブっていうのがあるらしいぞと。世界大会もあるし、これだと思いました。

森田とのりのTwitter上でのやりとり

―でも、当時は周りにやっている人もいなかったでしょうし、どこでどうやって始めればいいかわからないですよね。

のり:そう。だから、インターネットでいろいろ調べてみたら、とりあえず体験できる講習会みたいなのがあるらしいとわかり、行ってみることにしました。でも、そのときは初心者向けの体験会みたいなものかなと思ってたんですけど、実際は指導者になるための講習会で。完全に間違って応募していたんですよね。未経験でルールもわからないのに、いきなり指導者を目指すことになってしまった(笑)。ぼく以外の参加者はクッブ歴5年とかの、上手い人たちばっかりでした。

―うわあ。そこで、普通は心が折れてしまいそうですけど。

のり:でも、幸いにもその講習会がとても楽しかったんですよ。ここにいる師匠をはじめ、認定員の方が優しく教えてくださって。技術云々ではなくて、まずは楽しんでやってみてくださいという感じでした。カストピンナがクッブに当たったときの嬉しさや、「カーン」という気持ちいい音色もすごく良かったです。

あとは、当たるとみんなが褒めてくれるし、ハイタッチしたりなんかして、「なんだこの優しい世界は」と思いました。学生時代はずっと柔道部で褒められることなんてなかったし、毎日腕立て500回、乱取り2時間みたいな厳しい世界しか知らなかったので、ただ楽しいだけのスポーツがとても新鮮でしたね。同じ「投げる」スポーツでも、えらい違いだなと(笑)。

―勘違いがきっかけとはいえ、いまは公認普及指導員になり、その後はクッブの普及にも力を入れているそうですね。

のり:力を入れているというか、ただラジオで話したり、いろんな人を誘っているだけなんですけどね。でも、話をするとみんな「何それ?」って興味を持ってくれるし、実際にやってみると楽しいみたいで。文化放送の『レコメン!』で共演していた櫻坂46の菅井友香ちゃんにも体験してもらいましたけどすごく楽しそうでしたし、番組を卒業するときに思い出を聞いたらクッブのことを挙げてくれました。

あとは、日向坂46の加藤史帆ちゃん、乃木坂46の田村真佑ちゃんにも体験してもらいました。ぼくというより、共演する人気者の力を借りてクッブを普及していこうかなと(笑)。

文化放送の番組『レコメン!』で田村真佑にクッブを布教する様子。『レコメン!』のTwitterより

河原塚:じつは、そのラジオを聞いたリスナーの方が、先日の講習会に参加されたんですよ。18歳の学生さん2人で、どこでクッブを知ったのか聞いたら「のりさんのラジオ番組で話していて楽しそうだから来ました」と。普及指導員は偉そうに教えるのではなく、楽しさを伝えていただくことを目的としているので、のりさんは最高の指導員です。本当に感謝していますよ。

のり:いえいえ、ぼくがラジオで話していることはすべて師匠の受け売りですから。でも、ラジオきっかけでクッブに興味をもってくれる人がいるのはうれしいです。いつか、ラジオのリスナーを集めて「レコメン!カップ」みたいな大会もやってみたいですね。

のりの「師匠」こと河原塚の一投が
見事、クッブをとらえる
「ちょっと、うますぎでしょ(笑)」

すぐにでも「世界大会」を目指せる

―のりさんも目標にしているゴットランド島での世界大会って、どうすれば出場できるのでしょうか?

河原塚:オープン大会ですので予選はありません。エントリーをすれば誰でも参加できますよ。昨年はコロナ禍で中止になりましたが、例年は8月の第1金・土曜日に2日間にわたって開催されます。

―これまで、日本のチームが参加したことはないんですか?

河原塚:個人でエントリーした日本人はいますが、日本クッブ協会から選手を派遣したことはありません。じつは、世界大会への参戦は協会設立以来の悲願でもあります。来年、大会が開催されることになったら、ぜひ悲願を叶えたいですね。

のり:オテンキのりーずとしても、そこを目指しています。そのためにも、これから国内の大会にどんどん参加させてもらって実績をつくりたいですね。世界大会は予選がないといっても、とりあえず国内で優勝しないと日本代表として恥ずかしいですから。こないだ「歴史的大敗」を喫したジャパンクッブオープンが第1章だとしたら、世界選手権は第5章くらいかな。そのときのチーム名は「そして伝説へ」にします。

のりのショット。攻撃側はチームのメンバーが順番に投げていく
命中! お見事!
最後の攻撃で逆転勝利。さすが世界を目指すだけあって勝負強い

―これを読んでクッブに興味を持った人が、気軽に体験できる場所ってありますか?

河原塚:のりさんのように講習会に参加していただくか、日本クッブ協会にご連絡をいただければ、道具一式をお貸しすることもできます。協会のホームページでルールも紹介していますので、友達を集めて広い公園などで体験していただくといいと思います。

―ちなみに、道具って普通に買えるんでしょうか?

河原塚:はい。岩手県の住田町という林業が盛んな街でクッブの道具を生産していて、住田町のホームページ経由で購入することができます。価格は1万5,000円(税別、送料別)ですね。本格的に始めるならちゃんとしたものを購入するのがいいと思いますが、最初はレンタルか、ホームセンターにある小さい木材などで代用しても問題ないですよ。

実際、私がキャンプ場で講習会をやったときに手違いで道具が届かず、そのへんにあった薪を代用しましたから。あれはあれで、ワイルドで楽しかったですよ。そもそも、発祥のゴットランド島では薪で行なわれていたわけですしね。

のり:ぼくはAmazonで買いました。正直、けっこうな値段するなと思ったけど、指導員の資格があるのに道具を持っていないのはマズいですからね。レーサーが車を持っていないようなものだから。

河原塚:ちなみに、ジャパンクッブオープンで優勝すると、副賞としてクッブ1セットが贈られます。

のり:それは嬉しいですね。自分でやってみる前に、まずは大会を見学するだけでもいいと思いますよ。今日もぼくらがプレーしているところを少年たちがチラチラ見て、やりたそうにしていましたよね。あんなふうに、やっているところを見たら絶対に自分も参加してみたくなるはずですから。そして、ぜひクッブを始めてもらって、チームのりーずと一緒に世界を目指しましょう!

プロフィール
オテンキのり

1979年生まれ、千葉県出身。お笑い芸人。2006年にGO、江波戸邦昌とのお笑いトリオ「オテンキ」を結成し、NHK『爆笑オンエアバトル』、日本テレビ『ZIP!』、フジテレビ『爆笑レッドカーペット』など多くのテレビ番組に出演。文化放送『レコメン!』のパーソナリティーも担当する。2021年8月からは、GOとのコンビで活動。日本クッブ協会の認定普及指導員も務める。

河原塚達樹 (かわらづか たつき)

1955年生まれ、埼玉県出身。一般社団法人日本クッブ協会副代表理事。同協会の公認認定員も務める。日本レクリエーション協会在職中の2005年、日本で初めてクッブの普及に取り組み始める。2018年、新潟県で開催されているクッブウィンターカップ優勝。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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