オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:前田立 編集:青柳麗野(CINRA)、川浦慧(CINRA.NET編集部)

「『諦める』とは、『自分の持っているものを確認する』という感覚に近いのかもしれないですね」

―「あとがき」として収録された「コロナ後の東京」には、緊急事態宣言が出される少し前、すっかり様変わりした東京の街並みにキューバをオーバーラップさせた若林さんの心境が綴られています。現在は「コロナ後の社会」をどう捉えていますか?

若林:うーん……それがね、いっときは「リモートの可能性」が謳われてましたけど、「やっぱりお客さんが入ってて、近距離で絡むのがいいよね」という、逆にそっちの価値を再確認したような感じになってきていて。「新自由主義」というのは本当にしぶとくて、普通に戻っていく感じが強いですね。

自粛期間中は、もうちょっと価値観の変動があるかと思ったじゃないですか、ニュースでも「コロナで価値観が変わる」みたいな見出しが続いていましたし。「どんなふうに変わっちゃうんだろう?」と不安すら覚えましたけど、やっぱりシステムというものは、いい意味でも悪い意味でもしっかり構築されているんだなあと。それを強く感じていますね。

―先日『あちこちオードリー』で若林さんが、「俺はセカンド7番で死んでいく」と発言したことが大きな話題となりました。あの発言で言いたかったことも、そんな「新自由主義」的な世界で生きるための一つの考え方なのかなと思ったのですが。

若林:ああ、なるほど確かに。やっぱりメディアでニュースになりやすいのは、勝者の振る舞いや功績だと思うんですよ。個人的には圧倒的な才能の人との共演などを繰り返し、40歳を超えたところでようやく「諦め」がついて自分のスタイルができた。それって、働いている人はみんな経験していることだと思うんですけど。

―自分の欠落と向き合うことを、「あとがき」には「ボンネットを開けて欠落の構造を自分なりに理解する」と書いています。そこで「諦念と感謝」が生まれ、「外に目を向けられ他人への興味が急激に湧いてきた」とも。─般的に「諦め」とはネガティブな感覚とされていますが、諦めることで見える世界もあるのではないかと思います。

若林:本当にそう思います。やっぱり一目瞭然な価値をニュースにするし、それをみんなが評価すると思うんですよ。そのほうがわかりやすいですしね。でもそれが自分に「合っている」かどうかは、また別の話というか。「諦める」とは、「自分の持っているものを確認する」という感覚に近いのかもしれないですね。

―「諦念と感謝」という新たな感覚を身につけたことは、オードリーのあり方や、仕事のスタイルにも影響があると思いますか?

若林:質問の答えになっているかわからないんですけど、仕事が全くなかった若い頃は、やっぱり「強者と弱者」という分け方をさせてもらうのであれば、僕らは「弱者」だったわけです。芸能界では出演回数などがわかりやすい「価値」になると思うんですけど、余程の天才じゃない限り、時代が変われば若い世代に取って代わられる。

その彼らに対して「お願いします」という立場で絡んでいくようになっていくなかで、とにかく背伸びもせず、やれることをやるしかないという気持ちに変わってきました。前よりも「先を見なくなった」という感じなのかもしれない。

若林正恭

―そんなふうに等身大で、肩の力が抜けたオードリーに、再びテレビの仕事が増えているのは必然なのかもしれないですね。

若林:こればっかりは、自分でコントロールできないんですよ。僕らがやっていることは「下請け仕事」ですし、「オファーをいただいて現場へ行く」という立場なので、そう思って頂けているなら嬉しいですけどね。

―ちなみに、いまでもネガティブになってしまうときはありますか?

若林:ネガティブな感情というのは、「風邪を引く」みたいな感じでハマってしまうことがありますよね。「ネガティブにハマっても何の意味もない」と頭ではわかっていても、つい囚われてしまうことはいまもあります。そういうときは、「いまの心の様子は、100点満点でどのくらいか?」って、自分で点数をつけていますね。ひどいときは「今日は2点だな」みたいなときもある。でもそれをメモに残しておくと、風邪と同じで3日くらい経つと、少しよくなっているのがわかるんです。

自分の状態がいいときには点数なんてつけないので、読み返してみると2点ばっかり書いてある(笑)。で、日にちがポーンと空いて、また1点、みたいな。でも、そうやって「客観的な視点」を持っておくと、メモを眺めながら、「そんなもんだな、体調もあるし」と思える。ネガティブのなかに潜っていって「答え」を見つけられたことなんてないっすからね、本当に。

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書籍情報

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

2020年10月7日(水)発売
著者:若林正恭
価格:792円(税込)
発行:文春文庫

プロフィール

若林正恭(わかばやし まさやす)

1978年9月20日生まれ、東京都出身。同級生である春日俊彰とお笑いコンビ、オードリーを結成。その後、『激レアさんを連れてきた。』『スクール革命』『あちこちオードリー』など数多くのバラエティー番組に出演。彼らの主戦場であるニッポン放送『オードリーのオールナイトニッポン』が2019年に10周年を迎え、同年3月には日本武道館でライブを行った。著書に『社会人大学人見知り学部 卒業見込』『ナナメの夕暮れ』がある。2020年7月からnoteにて「若林正恭の無地note」を開設。月2本のペースで更新中。

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