オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

オードリー若林「生きづらさ」の答え。あるべき論から自由になる

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:前田立 編集:青柳麗野(CINRA)、川浦慧(CINRA.NET編集部)

いまの東京で、100%自己肯定することは難しい。そのなかで生きていくために大切なのは「没頭できるもの」

―若林さんは、やってみて楽しかったことやストレス発散になったことをメモ帳にランキングづけしているそうですね。

若林:例えば半日とか1日休みをもらったとき、自分は何がやりたいのかいつもわからなかったんです。だからゲーセンに行ってメダルゲームをやったりして、でも「これで合ってんのかなあ?」って。世間がすすめるような「夕方以降の東京での時間の過ごし方」みたいなものも、なんか自分にしっくりこなくて。それで一度、自分は何が好きなのかをちゃんと確かめたいと思ったんです。

―「好きなこと」「やりたいこと」を書き出すようになったら、自分が好きなものに対して敏感になったということですね。

若林:そうなんです。「好きだな」と思うものを書き出して並べてみると、「年相応であるべき」とか、「これを好きと言っておけば間違いないだろう」みたいなことから自由になれたというか。例えば僕の年齢で「ゴルフが好き」と言っても誰も何も言わないと思うんですけど、夜中に一人で「3ポイントシュート」を打ってるなんて言うと「何それ」って捕まっちゃう(笑)。でも、それが本当に「好き」ならやりたいなと、メモをすることで思えたんです。

―そうやって「没頭」できるものを見つけることには、どんな意味があるのでしょう?

若林:この新自由主義のシステムのなかで、「いまの自分でいいんだ」と思える人がどのくらいいるのか僕にはわからないですけど、なかなか東京で、100%自己肯定することって難しいと思うんですよ。そういう生きづらい世の中でバランスを取るためには、自分の脳味噌を別のところへポーンと持っていける「没頭するもの」を見つけることが大切なんですよね。

―本のなかでも、いままで生きづらいと思っていたことの一端が「新自由主義」的なシステムにあるのではないか? と書かれていました。それこそ芸能界やお笑いの世界は弱肉強食の競争社会のように思うのですが。

若林:確かに「強い人」が多いところだとは思います。「強い人」とは妥協しない努力家であり、自分の意見を言うことにも、いじられることにも強い、要するにコミュニケーション能力の高い人たち。ただ、そういう人たちには、「弱い人」に寄り添って言葉を一つひとつ紡いでるのかな? とも思うんです。……って、こんなこと言っちゃっていいのかな(笑)。もちろん、寄り添ってコメントされている方も、なかにはいらっしゃいますけど。

以前は「強い人」たちがうらやましかったし、そこを目指していたときもありました。けど、最近は「遠い国の話」みたいにピンとこなくなっているというか。自分はそういう性質ではないんだなと思うようになりましたね。

若林正恭

―それこそ『あちこちオードリー』(テレビ東京)や『激レアさんを連れてきた。』(テレビ朝日系)の番組で若林さんは、レアな芸歴を持っている方や経験をした方に対し、すごく興味を持って話を聞いていますよね。そんなふうに「他者」への興味が湧いてきたのは、最近のことですか?

若林:いまこうやって話しながら考えていたんですけど、キューバに行っていた4年前だったら出来ていないかもしれないですね。自分のことで精一杯だったし、ナルシストで自意識過剰、しかも生意気にも「生きづらい」なんて思っていたので。それこそ鏡を見て髪形を何度も直しているような感じで、自分のことばっかり見ていましたから(笑)。

いまは、車好きの人が「ここのデザインどうなってるんだろう?」っていろいろ覗き込んでいるような感じかな。フワちゃんとか、俺がいままで見たことない車の形をしてるからすげえ気になる(笑)。「このタイヤ、どうなってんの?」みたいな。

若林正恭
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書籍情報

『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』
『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』

2020年10月7日(水)発売
著者:若林正恭
価格:792円(税込)
発行:文春文庫

プロフィール

若林正恭(わかばやし まさやす)

1978年9月20日生まれ、東京都出身。同級生である春日俊彰とお笑いコンビ、オードリーを結成。その後、『激レアさんを連れてきた。』『スクール革命』『あちこちオードリー』など数多くのバラエティー番組に出演。彼らの主戦場であるニッポン放送『オードリーのオールナイトニッポン』が2019年に10周年を迎え、同年3月には日本武道館でライブを行った。著書に『社会人大学人見知り学部 卒業見込』『ナナメの夕暮れ』がある。2020年7月からnoteにて「若林正恭の無地note」を開設。月2本のペースで更新中。

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