暴力を捨てたC.O.S.A.は、ラッパーとして言葉で人を動かす

音楽や映画といったアートから料理まで、ものを作る上で重要になってくる作り手の「こだわり」。北欧の「クラフトマンシップ×最先端技術」をテーマにした『Fika』では、さまざまな作り手の「クラフトマンシップ」、ものづくりに対する「こだわり」の姿勢に触れる。

今回、インタビューしたのは、人の心を突き刺す「リリシスト」として知られる愛知県知立市出身のラッパー、C.O.S.A.。<孤独な一昨日から来ている男>というリリックが表すように、常に孤独さがつきまとっている印象がある彼。趣味だという釣りの話から、徐々に彼のラップの根源でもある「孤独さ」へと、話は進んでいった。

小学生の頃から、どう人と接していいかわからなかったんです。

―C.O.S.A.さんは、釣りが趣味とのことですが、いつ頃から釣りはお好きなんですか?

C.O.S.A.:子どもの頃から好きだったんですけど、1回離れて、2年前くらいからまたハマりはじめました。

C.O.S.A.(こさ)
1987年生まれ、愛知県知立市出身のヒップホップMC。キャデラックのローライダーに乗っていた6歳上の姉の影響で深くヒップホップにのめり込み、12歳の時にリリックを書き始めて、16歳からラッパーとしての活動を開始。同時にビートも手掛ける。その後、ビートメイカーとしての活動を経て、2013年よりラッパーとして再始動。精力的に楽曲制作とライブを行なう。

―どんなところに魅力があるんでしょう?

C.O.S.A.:釣りには、俺が好きな要素がそろっているんですよ。まず、道具を買いそろえるのが楽しい。自分の場合はいろいろな海に行くので、遠くまで出掛けるっていう魅力もありますね。

あとは、そもそも俺が海好きってこともあります。海って、土地によって全然違う。それが面白いんですよ。たとえば静岡の沼津辺りでは海岸から5m先の深さはもう20~30mくらいあるんです。でも俺の地元では、120m先でも3~4mくらいの水深しかなくて。

日本海のほうへ行くと、潮の動きが太平洋側とまるで違って、潮が動かないんですよね。それが、太平洋側で育った自分には謎で。そうすると、釣り方も、釣れる魚も全く違うから、地元で通用していたことが全然通用しなくて、歯がたたないんです。

―それは、困らないんですか?

C.O.S.A.:そういうときは、その場所で釣れている人の真似をするんです。俺は、あまり人に直接聞きにいかないで、ひたすらじっと観察します。どんな道具を使っているか、どれくらい獲物を待つかとか。

でも、これまで3回一緒に釣りに行った田くん(田我流)は、すぐに地元の人に話しかけますよ。「どうやって釣ったんですか?」って。田くんは釣り場でもいろいろな人とコミュニケーションを取って、すぐに仲良くなってます。あれはすごい。だから、彼には横の広がりも生まれて、人脈がたくさんあるんだろうなって。田我流が慕われる理由をいつも垣間見ていますよ。

田我流と釣りについてラップした“Wave”を聴く(Spotifyを開く

―C.O.S.A.さんは、そういうタイプではないんですか。

C.O.S.A.:性格的な問題だと思いますが、俺は人に聞くことが得意じゃないんです。このタイミングで聞いても大丈夫か、面倒くさくないかなどが気になってしまって……。それで、自分で調べて解決してしまうので、結構なんでも1人でできちゃうようになったんですよ。

―人に聞くことができないということが、ポジティブな方向に転換して、「自分でできる」ことになっているんですね。

C.O.S.A.:積み重ねの結果ではありますが、そうだと思います。いままで、大抵のことはできてきたので、これからもできるだろうという思いもあります。

でも、そういう人間って先輩から見ればかわいくないだろうな、って。なにも聞いてくることもなく、ある日突然1人でできるようになるので、昔から先輩にかわいがられた経験がなくて、寂しさを感じていましたね。

―C.O.S.A.さんのリリックには、「孤独」の空気が張り付いている感じがしますよね。いま仰られた「寂しさ」も関係しているんでしょうか?

C.O.S.A.:小学生の頃から、どう人と接していいかわからなかったんです。どうすればその人と友達になれるのか、なぜその人から嫌われているのか、って分からないときがありますよね。そういうときに、仲良くなる方法が全く分からず、ぶっ飛ばして自分のいうことを聞かせようとしてきたんです。

―仲良くなるというよりは、自分のいうことを聞かせていたんですね。

C.O.S.A.:それは小学校から中学くらいまでですが、当時の俺としては悪いことをしているつもりは全くありませんでした。

ただ、中学までは友達が同じ学区にいるので、みんな俺のいうことを聞いてくれていたのですが、高校になると話は違ってきます。地元にいる必要がないし、自由に動けるようになる。そのうちに、徐々に俺のいうことを聞かなくなって、気付いたら、周りに友達がいなくなっていました。そのときに、みんな俺の態度が嫌だったのだということに気付きました。

C.O.S.A.×Kid Fresino『Somewhere』を聴く(2016年 / Spotifyを開く

ヒップホップは、人を動かすことができる音楽なんです。

―それに気付いて、なにが変わりましたか?

C.O.S.A.:おとなしくなりましたね。それ以降、当然なんですけど、人に無理やりいうことを聞かせるようなことをしなくなりました。

―それで、友達はできたんですか。

C.O.S.A.:それ以降も友達が増えたかというとそういうわけでもないんですよ。それでも遊んでくれていた地元の友達や名古屋の友達とは、いまでも付き合いがありますけどね。俺が落ち着いたので、そのとき離れていった人たちの中には同窓会で会って普通に話してくれたり、連絡くれたりする人はいますけど、当時は友達になってくれるわけではなかった。それが正しいと思っていたわけではありませんが、本当に悪いことだと理解できていなかったんです。

―いまのC.O.S.A.さんは、どう人と接しているんですか。

C.O.S.A.:いい意味でも悪い意味でも、人に対して怒ることがなくなりましたね。なにか思うことがあっても、いわなくなりましたし、人に干渉することもあまりないです。

―干渉することで、相手を傷つけるかもしれないからでしょうか?

C.O.S.A.:それも確かにあります。いまでも対応の仕方がイマイチわかってないんですよ。俺はよかれと思ってアドバイスをしてあげても、それが相手にとってうれしいとは限らない場合も多いじゃないですか。だから、あまり干渉しないようにしてますね。

―C.O.S.A.さんのラップで、<俺は無慈悲なヤツ 愛はあるけど情がないのさ>というリリックがありますね。

C.O.S.A.:それは、いま結婚している相手に実際にいわれた言葉で。俺もそれをいわれてすぐに腑に落ちたんです。

とても落ち込んでいたり、悩んでいたり、困っていたりする友達がいれば、もちろん1度は助けようとします。でも、結局、自分自身が動かなければ、なにごとも変わりません。俺から見て、その状況を改善するために動いていないと感じれば、それ以上は干渉しない。最後は、自分でがんばるしかないんですよね。

<俺は無慈悲なヤツ 愛はあるけど情がないのさ>というリリックが印象的な “1AM in Asahikawa”収録のC.O.S.A.『Girl Queen』を聴く(2018年 / Spotifyを開く

―C.O.S.A.さん自身は、自分で動いてきたわけですからね。ラップをはじめようと思ったきっかけはなんだったのでしょう?

C.O.S.A.:ラップを好きになったのは小学校6年生のときなんですけど、もうそのときからずっとリリックを書いていますよ。ただライブはしていなかった。ライブをしたのは高校1年のときが初めてです。それで、名古屋に行くことが多くなりました。

―それからこれまで、ステージに立っているんですね。ヒップホップの、どんなところに惹かれているのでしょう?

C.O.S.A.:人を動かせるところですね。

―暴力ではなく、音楽や言葉によって人を動かすことができる……。

C.O.S.A.:ケンドリック・ラマーのアルバムとかを聴くと、多くの人は食らってしまうと思うんですよ。もちろん革新的な音楽性だけでもテンションは上がりますし、あのレベルのものを聴くと、リリックを読んだときに俺も食らってしまう。糧になるというわけではないんですけど、自分の中で大事にしているものを改めて確認できます。

たとえば、“u”という曲がありますが、その曲のリリックは、「音楽が売れて身近な人を助けられると思っていたけど、それはまやかしで、自分の妹が精神的に弱っているのに助けることができない」と苦悩する内容で。それを聞いたときに、彼のレベルでもそう感じるんだなと思いました。規模は小さくなるけど、似たようなことを感じることはあるので。

ケンドリック・ラマー“u”を聴く(2015年 / Spotifyを開く

「食らう」っていうのは、そうやってなにかを考えるきっかけや、変化を生むようなことなんです。

―ケンドリック以外で、好きなラッパーはいらっしゃいますか?

C.O.S.A.:2019年3月に亡くなってしまったニプシー・ハッスルですね。現役で一番好きなラッパーでした。その音楽性がなによりも好きでしたし、人としても憧れがありました。

まだ彼が本格的にビッグスターになる前、ちょうど東日本大震災のあとくらいですね。来日ツアーで名古屋に一度来てくれたことがあるんです。本人たちに責任はないけど、多くの海外アーティストは震災後の来日ライブをキャンセルしてたんですよ。でも、ニプシーは日本に来て、福島でのライブも希望して。それで、線香を上げて、ライブをして帰っていったそうです。

亡くなって以降、スターの立場になってもフッド(「地元」の意味)のコミュニティーに貢献していたということとかが再評価されていますけど、昔から彼の姿勢は変わってない。彼に会ったことのある人たちもナイスガイだといっていたし、なにより作品もコンスタントにリリースしていました。リスペクトするところしかありませんよ。

「This Is Nipsey Hussle」プレイリスト(Spotifyを開く

―C.O.S.A.さんが、誰かを動かしたという感触を得た、自身の曲はありますか?

C.O.S.A.:自分のおやじが警察官であることをリリックにした“知立Babylon Child”ですね。当時のヒップホップ界では、おやじが警察官であることはタブー視される傾向があって、いえない人がたくさんいたらしいんです。

C.O.S.A. “知立Babylon Child”MV

―そのいいづらいものをリリックにしたわけですが、そのときはある程度の勇気や覚悟が必要でしたか。

C.O.S.A.:それはありました。でも、自分の話だし、そこで黙ってしまったらラッパーではないとは思うんです。もちろん、人それぞれにスタイルがあり、俺とは違うスタイルもあると思うけど、俺のヒップホップはハードな部分がとても多いから、人を気にしていいたいことをいわなくなったらダメだろうという意識が昔からあります。

あの曲をドロップしてから、全国ライブへ行くと、お客さんがこっそりと近づいて来て、「自分も親が警察官で、それをクルーのみんなにはずっといえなかったけど、あの曲をきっかけにいえるようになりました」と感謝されることが、随分ありました。その中には、男の子も女の子もいましたよ。

俺の音楽は、みんながただただ楽しくなるような種類のものではないと思います。どちらかといえば、聴いて、「うわー」と考え込むようなもので。「食らう」っていうのは、そうやってなにかを考えるきっかけや、変化を生むようなことなんです。

力士をしていた祖父の形見だというゴールドの指輪

―C.O.S.A.さんのリリックは、リスナーになにかを突きつけるものがありますよね。

C.O.S.A.:このスタイルのおかげで、リスナーも本気になってくれる人が多いのはうれしいですね。本気で食らってしまって、泣きながら話しかけてくる人とか、人生が変わって救われたっていう人もいます。

―自分のスタイルのどのような部分が多くの人を本気にさせるのだと思いますか?

C.O.S.A.:俺のラップは、言葉を単に音符として扱っているわけではないので、聴き流せないんだと思うんですよ。もちろんそうしている部分や作品もありますが、BGMとして機能するような曲ではなくて。

みんなでいるときに聴く曲ではなく、1人の時間にじっくりと耳を傾ける人が多いと思います。俺自身も、そういう音楽の聴き方をしていて。人といるときには、本気で音楽を聴いたりしないし、そういう意味では俺の音楽と全くマッチしないって人もいるだろうなとは思いますね。

C.O.S.A.“Death Real”を聴く(2019年 / Spotifyを開く

―ヒップホップには、パーティーなどのときにかける側面もありますけど、そういう楽しみ方では、C.O.S.A.さんの作品の醍醐味は味わえないかもしれませんね。

C.O.S.A.:結果としてクラブでかかっている曲もありますけどね。でも、それは自分が意図したことではなくて、曲が広まったことでそうなっているというだけなので。

アメリカでは、クラブでヒットしている曲でもリリックが深く刺さるものもあります。日本語の曲もそこにかなり近づいていますが、今後もっとその傾向が強くなっていけば俺自身もうれしいですね。

プロフィール
C.O.S.A. (こさ)

1987年生まれ、愛知県知立市出身のヒップホップMC。キャデラックのローライダーに乗っていた6歳上の姉の影響で深くヒップホップにのめり込み、12歳の時にリリックを書き始めて、16歳からラッパーとしての活動を開始。同時にビートも手掛ける。その後、ビートメイカーとしての活動を経て、2013年よりラッパーとして再始動。精力的に楽曲制作とライブを行なう。2015年、自身初となるラップアルバム『Chiryu-Yonkers EP』を発表。2016年のKID FRESINOとのコラボレーション作『Somewhere』を経て、2017年にミニアルバム『Girl Queen』を発表。2019年にはシングル『Death Real』をリリースした。



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かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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