戸田真琴は自由のために訴える。人の本質を見た目で判断しないで

「人を見た目で判断してはいけない」。このコラムを読もうとしてくれているあなたも、きっと一度くらいは、耳にしたことのある言葉ではないだろうか。家族から教わったことかもしれないし、学校の道徳の授業で扱われたテーマかもしれない。

「決めつけ」はいけないことだという認識を獲得してきた私たちだけれど、じつは、心や頭の中の目に見えない部分には、まだまだ思い込みが潜んでいるかもしれない。AV女優・戸田真琴が今回訴えるのは、そうした「無垢な差別心」への危機感だ。

自分自身の価値観を、もう一度考え直すために。これからの性のあり方を考えるコラム連載第4回目をお届けする。

戸田真琴が綴るのは、日常にはびこる無垢な差別心について

私たちは服装やヘアスタイル、メイクや小物の選び方……自分で選ぶことのできる部分での「見た目」によって、自分自身がどういう人間であるか表現することができます。頓着することも、そこそこに楽しむことも、ほとんど気にしないことも自由で、それ自体が正解のない、またどんなあり方をしていても誰にも咎められる必要のない、それぞれの自己表現です。

しかし、「見た目」という、人と接するときに最初の情報源になる要素には、自分では選べないものもあります。それは顔立ちや体つき、もともとの肌の色、質感など、生まれ持った容姿のことです。もちろん体重の増減や外科手術などで変えることもできますが、そのためには労力やお金が必要です。

「ルッキズム」という言葉をよく目にするようになって久しいですが、あなたは自らの中にある、「見た目についての偏見」について、深く考えてみたことはありますか。また、生まれ持っての身体的特徴によって、あなたの性格や人間性、経験の有無や能力値の高さ、といった内面的な要素を誰かから予想されたことはありますか?

顔立ちが地味だから大人しそう、とか、体つきが子どもっぽいから性格も幼いだろう、とか、背が高いから仕事もできそう、とか、目が大きく印象的だから意思決定も堅いだろう、とか、そういった軽々しく放たれる言葉たちの中には、無垢で悪気のない差別心が潜んでいます。

戸田真琴(とだ まこと)
2016年にSODクリエイトからデビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。

私自身、AV女優としてデビューした頃に、髪型や服装によって性格を読み解かれること自体は気にならなかったのですが、生まれ持った身体的特徴について「肌が浅黒いから清純に見えない、ビッチだ」と書かれたことには、さすがに憤りを感じたものです。

女性と接する機会がない人の、理想化した女性像と比べられることが多い職業に従事しているのだから仕方ないと割り切るべきかもしれませんが、そこに含まれる無自覚なバイアスに対して、違和感を持たなくなることは、自分の中でどこか納得がいかなかったのです。

どんな姿かたちで生まれたかは、内面に関係のないはずなのに。いつの間にか刷り込まれた偏見

他人というものを知ろうとするとき、その人の本当の姿は、態度、仕草、言葉、眼差し、装い、距離感……その人自身が人生のうちで選んできた要素を含めて、やっと浮かび上がるものです。容姿についての生まれ持った要素に対しても、ありのままでいることを選んだり、もとの造形に似合うメイクや髪型を選んだり、似合うかどうかを無視して自分の好きなテイストに仕上げたり、労力とお金をかけて磨きをかけたり、「自分の容姿に対してどういうスタンスを選んだのか」ということ自体はその人自身を知るための要素となりえます。でも、「もともとはどういう姿かたちで生まれたのか」は、内面とは、あまり関係がないのだと思います。

よく考えてみると当たり前に思えるそんなことが、無意識のままでは意外と気が付くことができない。私たちは、見た目の印象と内面をないまぜにしてしまう思考法を、長らく刷り込まれながら育ってきてしまいました。

読み聞かされるおとぎ話では主人公の「心のきれいさ」が分かりやすく「容姿のきれいさ」に変換されていて、子ども心に「幸せになるお姫様は姿も美しいんだな」と悟らされてしまいます。

学校に行けば、アイドル雑誌でどの人が「好み」か選び合い、クラスの中心は可愛くてオシャレでキラキラした女の子。家に帰ればテレビのバラエティで太った女芸人がイジられて笑い者にされ、きれいな女優さんは大事に丁重に扱われる。

就職活動では「第一印象を良くしよう」という名目のもとに「目鼻立ちがよく見えるメイク」を勧められ、美人の子から順に「真面目で活発そうだね!」と言われて内定が決まっていく。大人になっても、容姿が優れているとされない人は飲み会の場で笑い者にされたり、美人という扱いの人には接待能力を求められたり、容姿による差別が続いていく。私たちは、当たり前のような顔をしてこの社会を生き抜いてきていますが、改めて振り返ると、今の日本で生まれ育つということは、同時に容姿による差別心というものを生まれながらに植え付けられるということでもあるのだと思います。

「裏切られた」という感情を恐れるゆえ、生まれてしまう思い込み

見た目……顔立ちや体型についての印象は一目で確認できる上、集団での共通認識を作り上げやすく、安易にコミュニケーションの話題として用いられやすいのも確かです。また、本能的に好みの顔立ちや体型というものがあることも否定できませんし、「多くの人に好まれる」姿かたちの傾向があるのも致し方ないことです。他人の容姿によって癒しや感動を得たり、なりたい容姿に憧れたり、見た目によって恋に落ちることさえも、それぞれはただ単純に素晴らしいことだと言えます。

さらには、人には元来「安心したい」という欲望があります。無意識のうちに「こういう容姿の人はこういう性格であるはずだ / べきだ」という予想をしてしまうと、相手がそうでなかったときに、自身の想像力の欠如を省みるより先に「裏切られた!」という感情になってしまう人も少なくありません。

そこでより深く相手を知っていくことや、予想と現実の違いを楽しむことに目を向けられる人はとても素敵な人だと思いますが、自分自身に余裕がないと、そういった予想外のことーー安堵よりも混乱を与えるできごとーーをポジティブに捉えることができないのも、人間の性質上、ある種仕方ないことかもしれないのです。

今日より明日、明日より明後日、もっと自由になるためにできること

生まれた場所で育った価値観を、そのまま疑わずに生きていくことは容易です。多くの人が共感する価値観で、ああいう容姿の人は笑い者にしてもいい、ああいう容姿の人はきれいだから接待させよう、そんなふうに他人の利用価値を値踏みして生きていけば、あなた自身は、それによって愉しんだりいい思いをすることもあるかもしれません。

しかし、誰かの容姿をあなたの価値観で一方的に消費しようとすること自体を、一度は改めて見つめ直してみてほしいのです。美しいお姫様が幸福になるおとぎ話を、なんの疑いもなく囃し立てることが、未来の子どもたちを「私は不細工だから幸せになれないんだ」と思わせてしまう悲しい瞬間に、いずれ繋がってしまうかもしれないのです。

装いを選んでいくことが自由であるように、どんな姿やかたちに生まれても、人は与えられるすべての選択肢について、自分自身の心にもとづいて決定することができます。人々が、誰かの生まれ持った容姿の特徴よりも、自ら選び取った特徴を深く捉えて他人と向き合うことによって、この世界はほんの少しだけ、自由な世界になります。

あなたが私の生まれ持った顔立ちや肌の色や身体つきよりももっと、私の選んできた一つひとつの要素で私のことを判断してくれたなら、私は今日より明日、明日より明後日、もっと自由に生きることができるのです。

そんなふうに、一人ひとりの眼差しが、一人ひとりの生き方に繋がり、それがやがてもっと大きな風潮となり、それはいつか世界をも変えていきます。想像力と、自分自身を疑い直す謙虚さを大事に、私たちはなによりも自分自身の心のあり方を選んで生きていくのです。心を大事に磨いてさえいるのなら、見た目に関わらずそこに本当の美が宿るということを、信じています。そんな種類の美で世の中が溢れたならば、きっときれいだろうな。そう思いませんか。

プロフィール
戸田真琴 (とだ まこと)

2016年にSODクリエイトからデビュー。その後、趣味の映画鑑賞をベースにコラム等を執筆、現在はTV Bros.で『肯定のフィロソフィー』を連載中。ミスiD2018、スカパーアダルト放送大賞2019女優賞を受賞。愛称はまこりん。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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