映画・ドラマにおける旧車ブーム。その理由を宇野維正が解説

映画・ドラマにおける旧車ブーム。その理由を宇野維正が解説

テキスト
宇野維正
編集:山元翔一

『ブレイキング・バッド』などに見る、クルマ選びとキャラクターの設定・演出の関係

優れた映画には、作り手のフェティシズムが不可欠だ。そして、そんな映画の作り手が、デザインが似通っていて、運転技術よりも安全性が重視されるようになった現代のクルマ(「現代のクルマを使用する以上、衝突シーンではエアバッグが開かなくては嘘になる」と言えば、その困難さがわかるだろう)ではなく、旧車に向かうのも無理はない。

ニコラス・ウィンディング・レフン監督作品『ドライヴ』(2011年)、エドガー・ライト監督作品『ベイビー・ドライバー』(2017年)といった、近年の特に印象的なクルマ映画が、舞台が現代であるにもかかわらず活躍するクルマの多くが旧車であることは象徴的だ。『ドライヴ』の主人公(名無しの設定)の愛車は1965年型のシボレー・シェベル・マリブSS。自動車修理工場で働きながら、カースタントマンの仕事もしている主人公が、コンピューターに制御された現代のクルマにプライベートで乗るわけがないのだ。

『ドライヴ』トレイラー映像

『ベイビー・ドライバー』のクルマ映画史上に残る冒頭のカーチェイスシーンで主人公・ベイビーが乗っているクルマは2006年型のスバルWRX。旧車というより、自動車専門誌などでは「ちょい古」などと呼ばれる時代のクルマだが、スバルがまだ『WRC(世界ラリー選手権)』で活躍していた、この時代までのWRXに強い思い入れを持つクルマ好きは日本人だけではない。

実はエドガー・ライトが書いた脚本では、このシーンで使用するクルマはトヨタのカローラ(どんなに普通のクルマでもベイビーの神がかり的なドライビングテクニックで局面を打開する、という演出意図があったのだろう)だったのだが、スタントマンから「ここは2006年型のスバルWRXがいいんじゃないか」とアドバイスがあったのだという。きっと、そのスタントマンはリアル「『ドライヴ』の主人公」のようなナイスガイであったに違いない。

『ベイビー・ドライバー』トレイラー映像

「ちょい古」なクルマを巧妙に使っている作品の筆頭といえば、ドラマシリーズの『ブレイキング・バッド』と、その前日譚となる『ベター・コール・ソウル』だろう。ウォルター・ホワイトの2004年型ポンティアック・アズテック、ジェシー・ピンクマンの1982年型シボレー・モンテカルロ、ジミー・マクギルの1998年型スズキ・カルタスエスティーム。

いずれも、名車などと呼ばれたことのまったくない大衆的なモデル(ポンティアック・アズテックにいたっては「世界で最も醜いクルマ」に選出されたこともある)だが、それらはニューメキシコ州アルバカーキの町を駆けずり回る彼らの拡張された身体であるのはもちろんのこと、その人格と完全に一体化した「主要キャラクター」として作中で重要な役割を果たしている。

2004年型ポンティアック・アズテックに乗るウォルター・ホワイト / © 2008 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
2004年型ポンティアック・アズテックに乗るウォルター・ホワイト / © 2008 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.

作中、ウォルター・ホワイトはポンティアック・アズテックを手放し、クライスラー・300 SRT8に乗り換えることとなる。この出来事はウォルター・ホワイトのキャラクター描写において、重要なターニングポイントともなっている / © 2008 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
作中、ウォルター・ホワイトはポンティアック・アズテックを手放し、クライスラー・300 SRT8に乗り換えることとなる。この出来事はウォルター・ホワイトのキャラクター描写において、重要なターニングポイントともなっている / © 2008 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.

『ブレイキング・バッド』シリーズに登場するクルマを紹介した動画。2004年型ポンティアック・アズテックのほか、1986年型フリートウッド・バウンダーRV、1986年型トヨタ・ターセル、1982年型フォードF-250が確認できる

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リリース情報

『ブレイキング・バッド シーズン1 ブルーレイ コンプリートパック(2枚組)』
『ブレイキング・バッド シーズン1 ブルーレイ コンプリートパック(2枚組)』

2015年7月22日(水)発売
価格:5,966円(税込)
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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