松浦弥太郎が語る。一過性のブームではない定着した北欧の魅力

松浦弥太郎が語る。一過性のブームではない定着した北欧の魅力

インタビュー・テキスト
麦倉正樹
撮影:西田香織 編集:青柳麗野・飯嶋藍子
2018/09/13
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無理な贅沢をせず、ものを「消費」しない北欧のライフスタイルと交歓するセンス

—松浦さんは、8月にスウェーデンやフィンランドを訪れたばかりとのことですが、現地に行くと、まずどんなことを感じるのでしょう?

松浦:僕が感じる限りでは、みんな流行というものに……特にファッションについての流行に、それほど反応していないように思います。自分らしさや自分の生活のスケールをよくわかっているからなんでしょうね。

もちろん、ハイブランドのお店や流行のお店もあるんだけど、それに対して浮足立ってない感じがすごくするんです。あとはやっぱり、みんな無理をしてないですよね。無理な贅沢をしていない感じがすごくします。

松浦さんは8月にスウェーデンやフィンランドを訪れたばかり。

—以前、ノルウェーに留学経験のある古市憲寿さんに話を聞いたとき(インタビュー:福祉国家に暮らす若者は幸せ?留学もした古市憲寿が北欧を語る)、北欧の人はどこかのんびりしていて、あまりガツガツしていないとおっしゃっていました。

松浦:それは、自分を他人と比べないからでしょう。自分はなにが好きか、自分はどう生きたいのかっていう、自分の価値観をそれぞれが持っていて、それが美意識になっているんです。

それは、北欧に行くたびに感じますし……まあこれは一概に言えないのかもしれないですけど、向こうは物価が高いじゃないですか。なので、ひとつ買い物をするにしても、それが自分にとってベストな買い物なのか、みんな考えていると思います。なにも考えずに、ジャンジャンものを買ったりしない人が多いですよね。

—なるほど。

松浦:「これは本当に、自分にとって必要なものなのか?」とかね。「これにお金を掛けるんだったら、ほかにもっと価値のあるものがあるんじゃないか?」とか、そういうことをきっと考えるんじゃないかと思うんです。だから多分、目に見えるものに、あまりお金を掛けないんじゃないかな。そういう暮らしのセンスをすごく感じます。

だから彼らは、直せるものを好んで買う傾向があるし、何年も使えることが想像できるものしか買わない人もいますよね。ということが、衣食住すべてのものに対して言えるのではないでしょうか。自分の欲求を満足させるためにものを手に入れるというよりは、それが自分にとってこれから先、どう役立っていくのかを考えながら、ものを選んでいるんですよね。

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靴を磨きました。今日から9月。がんばろう。

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北欧の人々のものの選びかたに共感する松浦さん。そんな松浦さんの愛用品などはインスタグラムでもよく掲載されている。

—ものと自分の今後の関係性みたいなものを考えながら、ものを選んでいる?

松浦:うん、だから、使い終わったら捨てるとか、そういうことではなく……彼らはものを「消費」しない。壊れたものを直す喜びや幸せを知っているから、ものをすごく大事にしているように感じます。絶対に捨てないというか、本当にいらなくなったら、リサイクルのお店に出すという文化も根付いていますよね。

「ふわっと『こんな感じ』で済ませていることを、自分なりの言葉で再定義していくことがライフワークなんです」(松浦)

—お話を聞きながら、そういった北欧的な考え方というのは、これまで松浦さんが追求してきた「ていねいな暮らし」や「豊かさ」といったものと関連性があるように思いました。いま松浦さんは、どのようなことを考えながら、ご自身の仕事をされているのでしょう?

松浦:僕の中にある大きなテーマは、やっぱり暮らしとか日常といったものです。暮らしの中で、みんないろんなことに、困ったり悩んだりしているわけじゃないですか。たとえば、「幸せとはなにか」とか「豊かさとはなにか」、あるいは「役立つとは、どういうことなのか」……。そういうものは、時代の中で常に変化していくわけです。

でも、そういった悩みは感覚的に流れていってしまうから、いちいち誰も言語化しない。特に日本人は、なんとなくの雰囲気とか、「こんな感じなのかな」っていうところで終わらせがちだったりするじゃないですか。

松浦弥太郎

—たしかに。

松浦:そういう中で、僕自身にできることはなにかというと、みんなが新しく感じている価値や困難、いろんな感情、そうやってふわっと「こんな感じ」で済ませていることを、自分なりの言葉で再定義していくことなんです。それが自分のひとつのライフワークになっていて。

もちろん、そのすべてが再定義できるとは限らないけれど、再定義したとき、そこになにか僕なりの新しい価値が見出せるのであれば、その価値を必要としている人たちが、きっとどこかにいるはずだと思っています。なので、そこに向けて、いろんな方法で言葉やアイデアを届けたい。もっとシンプルに言うと、いつもどこかに困っている人がいて、僕はその人たちを助けたいだけなんです。

—「助けたい」という気持ちなんですね。

松浦:それは別に怪我をして困っているとか、病気で困っているとか、どこかでなにか出来事があって困っているわけじゃないんだけど、普通に生活している中で困る感情っていうのは、世の中にたくさんあって。それを一つひとつ、誰かが気づく前に見つけて言語化して、アイデアにすることでその価値をはっきりさせるというか。

それで誰かを「助ける」というと、ちょっと語弊があるけど、それによってほんの少しでも役に立てればいいなっていうのが、僕にとっての仕事であり、ライフワークなんです。

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プロフィール

松浦弥太郎(まつうら やたろう)

2005年から「暮しの手帖」編集長を9年間務め、2015年7月にウェブメディア「くらしのきほん」を立ち上げる。2017年、(株)おいしい健康・共同CEOに就任。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。著書多数。雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。中目黒のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表でもある。

松沼礼(まつぬま れい)

2004年にグラフィックデザイナーとしてUNIQLOに入社。2007年グラフィックデザインチームリーダーとなりUTブランドを発足。UT Store Harajuku.の立ち上げの中心となる。2011年にはデジタルマーケティングチームリーダーを兼務し、「Uniqlooks」「Voice of New York」などを多数のデジタルマーケティングを展開。MoMAとのアートプロジェクトやPharrell Williams、KAWSなどとのプロジェクトも実施。現在、UTコラボレーション事業推進部部長・グローバルマーケティング部PR部長を務める。

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