カンヌ最高賞受賞『ザ・スクエア』を北欧女子オーサはどう観た?

カンヌ最高賞受賞『ザ・スクエア』を北欧女子オーサはどう観た?

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:中村ナリコ 編集:山元翔一

「スウェーデン・アカデミー」と深く関わっていた男性のセクハラスキャンダルが今、スウェーデンでは大きな話題になっています。

—僕はこの映画を観て、ルーカス・ムーディソン監督の『リリア 4-ever』(2002年)を思い出しました。あの映画も「スウェーデンの知られざる実情」を描いていて、しかも実際にあった出来事が基になっていると知って、大変ショックを受けたんです。

オーサ:私もあの映画には、とても心を動かされました。

—ソ連崩壊後の東ヨーロッパで、貧困に苦しむ少女が男に騙されスウェーデンに拉致され、何人もの男に売春を強要されるという壮絶な話。男女平等が進んでいるというスウェーデンでも、こんな出来事があるのかと。1999年にスウェーデンでは「買春禁止法」が制定されて以降、性犯罪は減ってきていると言われていますが、実際はどうなんでしょうか。

オーサ:おそらく減ったのではないかと思います。でも買春禁止法によってお金でセックスを買うことが違法になったことは、「売る側」にとっても本当によかったのか、違法なマーケットになったことで「売る側」のセーフティが脅かされてしまったのではないか、そういう意見もあります。一方で、昨年アメリカで起きた「#MeToo」運動(セクシャルハラスメントなど性的暴行の被害体験をSNSなどで告白・共有する動き / 参考記事:ビョークが「デンマーク出身の映画監督」からのセクハラ被害を告白)は、スウェーデンでも広がりました。ひょっとしたらアメリカよりも様々な問題が表出したかもしれません。何人もの女性をレイプしたことを告発され、職を追われた有名人も何人もいますし。

オーサ・イェークストロム

オーサ:本当に恥ずかしい話なのですが、「ノーベル文学賞」を選考する「スウェーデン・アカデミー」の選考委員の夫で、自身もアカデミーと深く関わっていた男性のセクハラスキャンダルが今、スウェーデンでは大きな話題になっています。しかも、その人物に対する処分が甘すぎるということで、前事務局長を含む何名かの会員が辞任してしまいました(2018年4月時点)。

アカデミー会員は終身制で、死去するまで会員は補填されません(スウェーデン・アカデミーの会員数は18名)。アカデミーとしての意思決定を行なうには最低12人の出席が必要ですから、今の規約のままだとあと2人が「辞任」すれば、アカデミーは機能停止状態に陥る恐れがあります(2018年5月4日、アカデミー会長含む4人の委員が脱退したことにより「ノーベル文学賞」の発表を見送ることが明らかとなった)。

男女の役割分担の理想は半々。実際そこまではなかなか難しいですが、まったく協力しない男性は少ない。

—「#MeToo」運動が起きなかったら、まだ隠蔽されていたかと思うと本当に暗澹たる気持ちになりますね。

オーサ:スウェーデンはレイプ被害の多い国と言われるのですが、実は他の国よりも泣き寝入りする被害者が少ないという事実もあるんですよね。被害を隠さずに警察に行くから統計的な数値が高いんです。それに男女平等が進んでいる社会なので、レイプ行為の定義が他の国よりも厳密ということもあります。こうした理由で統計が高くなるのはある意味でよいことだと思います。ただ、被害届を出しても、証拠がないと警察は動いてくれない。それで、夏には法律が改定され、女性との同意がない性行為はすべてレイプと見なされることになりそうです。

オーサ・イェークストロム

—日本でも官僚のセクハラや知事の買春行為などが問題になっています。日本人とスウェーデン人では、価値観が違うなと思うことはありますか?

オーサ:先日、日本人の女性たちと「女子会」をやったのですが、参加した女性は私以外みんな結婚していて子どももいたんですね。自然と育児の話になったのですが、彼女たちは口を揃えて「旦那が協力的じゃない」と愚痴をこぼしていました。しかもそれが、「女って大変だよね」で終わっちゃう。日本の女性は、「仕方ない」と思って諦めてしまう傾向にある気がします。

スウェーデンだったら、もっと男性に厳しく要求しますよ。男性も育児に参加するのは当然という考えですから。男女の役割分担の理想は半々。実際そこまではなかなか難しいですが、まったく協力しない男性は少ないと思います。男性側からそうした声があがることもあります。育児休暇を取りたいとか、子どもともっと絆を深めたいとか……。

—育児は男性の意識改革ももちろん大切ですが、同時に社会のサポート体制をもっと強固にしていく必要がありますよね。

オーサ:既にサポートがある部分もあって、映画のなかでもクリスティアンは、離婚していて2人の子どもを交代で面倒見ていますよね。ああいうケースは当たり前にあります。あと、会社の会議に赤ん坊を連れてくる同僚もいましたよね。

私はずっとフリーランスで働いていたので、実際にそうした光景は見たことないですけど、きっとスウェーデンでは日常的にあることなのだろうなと思います。保育園に送り迎えしている男性も普通にいますし、子どもが病気になると男性社員でも休みますね。

オーサ・イェークストロム

ノルウェーは誰にでも愛される弟で、スウェーデンとデンマークは喧嘩ばかりしている兄弟という感じ。

—話は変わりますが、マーベル作品『マイティ・ソー』シリーズのモチーフは北欧神話じゃないですか(参考記事:『マイティ・ソー』『アベンジャーズ』好きに捧ぐ北欧神話ガイド)。『ザ・スクエア』のなかにも「ソーのハンマー」っていうセリフが出てきましたけど、実際スウェーデン人にとって北欧神話はどのくらい馴染みがあるんでしょう。

オーサ:学校でもあまりちゃんと教えてくれないし、実はあまり馴染みがないんですよね(笑)。私も知りたいと思っているところです。もちろんハマっている人もなかにはいますし、北欧神話をベースにした宗教グループも存在はしています。でも、北欧神話の神さまたちよりは、ギリシャ神話やローマ神話のゼウスやアポロンといった神さまのほうがメジャーかもしれないですね。その2つは学校でも習いましたし。

それよりも、民話などに出てくる妖精……日本でいうところのカッパやオニみたいな存在は親しまれています。妖精がメジャーになったのは、キリスト教とミックスされて残ったからじゃないかな。たとえばクリスマスになると、北欧の妖精たちはサンタクロースのアシスタントをしていますね(笑)。そういう絵が描かれています。

オーサ・イェークストロム

—とても興味深いです。ちなみにクリスティアンはデンマーク人ということですが、スウェーデンとデンマークってどんな関係なんですか?

オーサ:競争相手という感じかもしれません。昔はよく戦争していましたし。おそらくデンマーク人は、スウェーデン人を少しバカにしているところがあります。「あいつらはダサいし、ユーモアがなくて退屈だ」とか、「フェミニンだ」とか。スウェーデン人はスウェーデン人で、デンマーク人のことを「たくさんタバコを吸うし、ヘルシーじゃない」とか「女性に対しての考え方が古い」「移民に対して態度が悪い」って言ってます。でも日本で東京の人と大阪の人の間にライバル意識があるのと同じで、仲が悪いのはそういうジョーク的な要素もあります。

—日本で暮らしていても感じますが、お隣どうしっていろいろ複雑なんですね……(笑)。

オーサ:スウェーデン、デンマーク、ノルウェーを兄弟でたとえると、ノルウェーは誰にでも愛される弟で、スウェーデンとデンマークはしょっちゅう喧嘩ばかりしている兄弟という感じ。

—スウェーデン人監督が、デンマーク人の主人公でスウェーデンを舞台にした映画を制作した裏には、何かしらの意味が含まれていそうですね。

オーサ:これは私の想像ですが、この映画が近い将来の世界を描いているのだとしたら、スウェーデンとデンマークの間の行き来が、もっと活発になっているかもしれない、っていうことが言いたかったのかもしれないですね。

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』チラシ
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』チラシ(サイトを見る

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作品情報

『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティほか全国順次公開中

監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:
クレス・バング
エリザベス・モス
ドミニク・ウェスト
テリー・ノタリー
ほか
上映時間:151分
配給:トランスフォーマー

書籍情報

『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議4』

著者:オーサ・イェークストロム
2018年2月22日(木)発売
価格:1,188円(税込)

プロフィール

オーサ・イェークストロム

1983年生まれ、スウェーデン出身。子どもの頃、アニメ『セーラームーン』と漫画『犬夜叉』に影響を受けて漫画家になることを決意。スウェーデンでイラストレーター・漫画家として活動後、2011年に東京へ移り住む。一番好きなアニメは『少女革命ウテナ』、一番好きな漫画は『ナナ』。これまでに『北欧女子オーサが見つけた日本の不思議』1~4、『北欧女子オーサのニッポン再発見ローカル旅』、『さよならセプテンバー』を発表。

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