幸福度上位の北欧は離婚が多い? 恋愛学者に聞く、幸せな選択

国連が毎年3月20日の「世界幸福デー」に発表している「世界幸福度報告書(World Happiness Report)」。2017年は、1位ノルウェー、2位デンマーク、3位アイスランドと、北欧諸国が軒並み上位にランクインされている(日本は51位)。

このランキングは、各国民に「現時点で、自分の人生を10段階で評価してもらう」という主観的なデータに基づくもの。あわせて、「人口あたりのGDP(国内総生産)」や「社会的支援の有無(困ったときに、助けてくれる親族や友人がいるか?)」といった指標が、ランキングを裏づけるデータとして発表されている。

しかし一方で、北欧諸国の離婚率が高いという事実もある。「国連人口統計年鑑」によると、デンマークの人口1,000人あたりの離婚件数は2.8人(2012年)。日本の1.81人(2011年)と比べると、格段に多いことがわかる。「最も幸福な国」から見えてくる、「幸せな結婚」とは。社会学や政治学の分野から恋愛を分析した「恋愛学」を教える、早稲田大学・森川友義教授に話を聞いた。

結婚生活は破綻するようにできている?

—幸福度が高い北欧諸国が、離婚率も高いというのは意外でした。なぜそのようなデータが出てくるのでしょうか?

森川:その前に、まずは結婚について考えてみましょう。基本的に、結婚生活って破綻するようにできているんですよね。

森川友義
森川友義

—破綻するようにできている? ちょっと過激な気もしますが……。

森川:「限界効用逓減の法則(げんかいこうようていげんのほうそく)」というものがあります。たとえば、なにかおいしいものを食べたとして、1回目に食べた時が一番美味しく感じ、50回目になると慣れて飽きてしまう、というような「満足度の低下」のことです。

結婚生活も、同じです。1日目は楽しいけれど、1年、2年、10年、30年、50年と経っていくうちに飽きてしまうのは、人間の性質的に仕方ないことなんです。セックスも同じです。同じ人と何度もセックスをしていれば、だんだんと飽きてしまう。だから、新たに「恋愛したい」とか「セックスしたい」と感じてしまい、不倫をする人が多いんですね。

—とくに最近は、不倫の話題が盛んですよね。どのくらいの人が不倫しているものなんでしょうか?

森川:私の著書『大人の「不倫学」』(2016年)では、さまざまな調査から、一生のうちで不倫を経験する男性は、74.0%であるというデータを発表しました。女性は、29.6%ですね。そのほかに、42%の男性が風俗を経験しているといわれています。

森川友義

—えっ。思っているよりも多いような……。

森川:ちなみに、発覚率も男女で全然違うんですよ。夫の不倫の発覚率は21%、妻の不倫の発覚率は6.8%です。妻は、ほぼ隠し通しているということですね。ただし、本当は気づいていても、結婚関係を継続させるために黙っているという場合もあります。

—これは私の感覚かもしれませんが、もし相手が不倫をしていることがわかっても、日本では「離婚」を選択しない人が多そうですよね。

森川:最近は離婚する人も増えてきましたが、社会システムの側面から見ても、世間体の側面から見ても、日本ではまだ離婚はしづらい。けれど、「幸せを感じていないのに、結婚生活を続ける」ということにどれだけの意味があるのか、と私は思います。

離婚率と幸福度、相関関係はあるか?

—北欧において離婚率が高いことと、幸福度ランキングが高いことの相関関係はあるんでしょうか?

森川:いえ。OECD諸国のデータをベースに、幸福度調査との関係性を調査したのですが、離婚率と幸福度は直接の相関関係がないというが証明されています。

—離婚率が高いから幸福度が高い、というわけではないということですね?

森川:そうです。幸福度と直接関係があったのは、年間所得と雇用率と、ジェンダーギャップ。このなかで、ジェンダーギャップに注目しました。ジェンダーギャップが広がれば広がるほど幸福度は下がり、逆に縮まれば縮まるほど、幸福度が上がる傾向にあります。

世界経済フォーラムが2017年に発表した「男女平等ランキング」において、アイスランドは1位です。そのほか、ノルウェーやフィンランドも上位にラインクインしています。一方、日本は114位なんですよ。この結果は、離婚率に影響を与えていると思いますね。

—どういうことでしょうか?

森川:ジェンダーギャップが少ないというのは、要するに女性が経済的に独立をしているということですよね。社会的・経済的に進出している、と。女性が経済力を持っていれば、専業主婦よりは圧倒的に離婚しやすいはずです。そのうえ、北欧諸国は税金が高い代わりに社会保障が充実している。この2つの事実は非常に大きいですよね。離婚しても、そのあとの不安が少ないわけですから。

森川友義

—なるほど。そのことを踏まえて、北欧諸国について、先生はどのように感じますか?

森川:私には、北欧諸国は「幸せになるために努力している」というように感じます。日本だと離婚はまだネガティブな印象があるかもしれませんが、本来は「幸せになるためにするもの」ですから。

—幸せになるための努力。社会保障の充実も、ジェンダーギャップの少なさも、その努力に由来しているのかもしれませんね。

森川:もちろん離婚せずにすめば幸せですが、無理な結婚を継続するよりも、離婚をして幸せになるほうがいいと思うんです。最初に言ったように、結婚というシステムはもともと人間の欲求に反していて、かなり無理のある仕組みです。実際に無理が生じたとき、離婚して幸せになるということに、北欧諸国のほうが前向きで、かつ、実行しやすい環境があるのでしょう。

「失敗しても仕方ない」という気持ちで結婚を

—スウェーデンには、同棲しているカップルが申請できる、「サンボ」という制度がありますよね。これは、いわゆる事実婚と呼ばれるものに近いのでしょうか?

森川:そうですね。法的にしっかりと制度化されている仕組みで、法律婚に近い保証を受けることができます。もともと、フランスなどヨーロッパ全体を見ても事実婚は多い傾向にあるのですが、とくにスウェーデンは、法律婚をしている夫婦の9割がサンボを経ているというデータがあります。

—どうして、フランスや北欧では「事実婚」を選ぶ人が多いのでしょうか?

森川:やはり、法律婚ほど固い契約を結ばなくても結婚生活を送れるというのはメリットだと思いますよ。ですが、前提条件にあるのは、やはり女性の経済的独立です。結婚という契約を結ばなくても、女性が不安にならない仕組みがあるからこそ、「事実婚」が成り立つのかもしれません。

日本の場合は、まだまだ社会環境や事実婚という制度において女性が不利益を被りやすいので、女性が「結婚したい」と思うケースが多いでしょうね。それに、親が「うちの娘どうするんだ」と言ってくる、とか。

森川友義

—親が言ってくるとか、周りが言ってくる、というパターンはありそうですね。先生としては、日本でも事実婚が増えたほうがいいと思いますか?

森川:いえ、現状の日本では、制度の問題で子どもが生まれたときにいろいろと不都合が起こってしまうので、必ずしも事実婚が幸せだとは言い切れないと思います。

政治学者の目線でいえば、日本が抱える社会問題についても考えなければなりません。多様な生き方やそれぞれの考え方がありますが、少子高齢化問題に関して言えば、既婚者は平均1.94人の子どもを産んでいるというデータがあります。

さらに、私はいま「シニア婚」に注目しているのですが、こちらは孤独死を減らす、経済的な二馬力の創出、空き家問題の解決など、社会のさまざまな問題の解決につながっていきます。ですから、結婚や再婚という選択をしやすくなるような環境を整えることが重要だと思いますね。50歳で結婚しない男の人が22%いるわけですから。もっと「失敗しても仕方ない」くらいの寛容な気持ちで、結婚に挑んでほしいです。

—たしかに、「失敗できない」という気持ちは強そうですね。どうして、いまの日本では結婚しない人が多いんでしょうか?

森川:男性に関して言えば、年収と既婚率は比例関係にあるんです。要するに、お金を持っている人はかなりの確率で結婚しているし、逆に言えば貧乏だと結婚していない確率が高い。そういった背景があるなかで、いまは非正規社員が増えているんですよね。

やはり、ここにもジェンダーギャップの問題が関わってくるのですが、女性の社会進出が進んでいないいまの日本だと、結婚市場では経済力が重視される傾向にあるのだと思います。

幸福な結婚とは、なんだろう?

森川友義

—日本も、北欧のような社会環境になれば、結婚に対する考え方も変わっていくのでしょうか?

森川:そう思います。それが自然なことじゃないでしょうか。日本はいままさに、「昭和の夫婦関係」から「21世紀の夫婦関係」へと推移しているところです。昭和の結婚は、奥さんが専業主婦になり、旦那さんの仕事について行ってマイホームを買って一生添い遂げる、みたいなものが多かったですよね。ですが、女性のキャリア志向が増えていることもあり、そのパターンは、もはや崩れかけています。これからの女性は、仕事も子育ても大切にする、という時代です。

私のゼミの卒業生のなかには、赤ちゃんを抱いて仕事に行っている人もいるんです。赤ちゃんを抱っこしたままプレゼンしているそうで、その選択と、それが実現できる環境は魅力的だと感じました。女性が経済力に不安を抱えることなく、働きながら子育てができる。それが当たり前の社会になればいいですね。そうすれば、本当はもう一緒にいたくないけれど、生活のために離婚できない、というようなケースは減るんじゃないかと思います。

—制度や環境にしばられて、身動きがとれなくなってしまうような社会は変えていけるといいですよね。

森川:そもそも、1回の結婚でうまくいこうとすること自体に、無理があるんじゃないかと私は思うんです。スポーツだってなんだって、最初からうまくやるのは難しいですから。

—最後に、北欧諸国の調査結果や環境も踏まえて、「本当に幸せな結婚とはどういうものか」についてお聞かせください。

森川:そうですね。そもそも「幸せ」「幸福」とは、という話になってしまいますが、幸福というのは、「満足している状態」であると私は考えています。

しかし、冒頭にもお話したとおり、その状態が長く続くと慣れてしまい、満足度が低下してしまう。つまり、幸せと感じにくくなってしまうということですね。その「マンネリ」を打破するためには、小さいものでもいいので目標を設定して、それを超えていくという上昇志向を夫婦で共に持つことが重要だと思います。

森川友義

—北欧の人たちのように、「幸せになるために努力をする」ということですね。

森川:その通りです。つまり、さまざまな意味で、われわれは「北欧型」を目指すべき、といえるかもしれませんね。

幸せになることを諦めず、努力をし続ける。もし、幸せでない状態が続いてしまうようであれば、我慢をしない。そういった選択をできる社会があることこそが、日本が目指すべき将来像だと考えます。

—北欧の人たちは、さまざまな選択ができる環境にあるという点で「幸せ」なのかもしれないですね。

森川:はい。本当に幸せな結婚とは、さまざまな選択肢があるなかで、心の底から望んで結婚という選択をし続ける。そういう結婚のことじゃないでしょうか。

プロフィール
森川友義 (もりかわ とものり)

1955年、群馬県生れ。早稲田大学国際教養学部教授。79年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、ボストン大学大学院政治学研究科で修士号、オレゴン大学大学院政治学研究科で博士号を取得する。その後、国連開発計画やオレゴン大学客員教授を経て、2004年より現職に就く。2008年、恋愛を科学的に分析する「恋愛学入門」という講義をスタート。恋愛学に関する著書として、『なぜ、その人に惹かれてしまうのか? ヒトとしての恋愛学入門』『なぜ、結婚はうまくいかないのか?』、田村淳(ロンドンブーツ1号2号)との共著『ロンブー淳×森川教授の最強の恋愛術』などを発表。2012年には、フジテレビ系ドラマ『結婚しない』の脚本監修を務めるなど、幅広く活躍している。

夏生さえり (なつお さえり)

山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)。



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「幸福度が高い」と言われる北欧の国々。その文化の土台にあるのが「クラフトマンシップ」と「最先端」です。

湖や森に囲まれた、豊かな自然と共生する考え方。長い冬を楽しく過ごすための、手仕事の工夫。

かと思えば、ITをはじめとした最先端の技術開発や福祉の充実をめざした、先進的な発想。

カルチャーマガジン「Fika(フィーカ)」は、北欧からこれからの幸せな社会のヒントを見つけていきます。

スウェーデンの人々が大切にしている「Fika」というコーヒーブレイクの時間のようにリラックスしながら、さまざまなアイデアが生まれる場所をめざします。

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